夏目漱石 『野分』 「どこへ行く」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『野分』

現代語化

「どこに行くの?」
「今図書館に地理学教授法を借りに行った帰りだよ」
「また地理学教授法か。はははは。なんだか浮かんだ顔してるね。どうしたの?」
「近頃喜劇の顔面をどこかに落としてきたみたい」
「また新橋の先まで探しに行って、けんかでもしたんでしょ。くだらない」
「新橋どころか、世界中探しても落ちてなさそうだ。もう、おしまいだ」
「何を?」
「全部おしまいだ」
「全部おしまいって。しばらくおしまいにしておいたらいいよ。全部おしまいにして、俺と一緒に来いよ」
「どこへ?」
「今日あそこで慈善コンサートがあるんだけど、チケットを2枚買ったんだけど、他に誰も行く人がいないから、ちょうどいい。君行かない?」
「いらないチケットとかを買うんだ。もったいないことするんだな」
「いや、義理だから仕方なかったんだよ。親父が買ったんだけど、親父は西洋音楽なんてわからないから」
「それじゃ余った方を私にあげればいいのに」
「実は君のところへあげようと思ったんだけど……」
「いいえ。あの人へあげちゃってください」
「あの人って。――うん。あの人か。あれはいいんだ。自分も買ったから」

原文 (会話文抽出)

「どこへ行く」
「今図書館へ行った帰りだ」
「また地理学教授法じゃないか。ハハハハ。何だか不景気な顔をしているね。どうかしたかい」
「近頃は喜劇の面をどこかへ遺失してしまった」
「また新橋の先まで探がしに行って、拳突を喰ったんじゃないか。つまらない」
「新橋どころか、世界中探がしてあるいても落ちていそうもない。もう、御やめだ」
「何を」
「何でも御やめだ」
「万事御やめか。当分御やめがよかろう。万事御やめにして僕といっしょに来たまえ」
「どこへ」
「今日はそこに慈善音楽会があるんで、切符を二枚買わされたんだが、ほかに誰も行き手がないから、ちょうどいい。君行きたまえ」
「いらない切符などを買うのかい。もったいない事をするんだな」
「なに義理だから仕方がない。おやじが買ったんだが、おやじは西洋音楽なんかわからないからね」
「それじゃ余った方を送ってやればいいのに」
「実は君の所へ送ろうと思ったんだが……」
「いいえ。あすこへさ」
「あすことは。――うん。あすこか。何、ありゃ、いいんだ。自分でも買ったんだ」


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