GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『野分』
現代語化
「本の上ではね」
「本の上――本の上ではもちろんだけど、実際だって、結構苦しいこととか悩んだりすることあるんだよ」
「だって、生活に困ってないし、時間はたっぷりあるし、勉強も好きなだけできるし、創作も思い通りにできるじゃん。俺から見たらすごく幸せだよ」
「でも実はそういうの裏面って、全然気楽じゃないんだ。俺もいろいろ心配事があって、嫌になるくらいだよ」
「そうかなあ」
「君までからかうんだ、ますます嫌になっちゃうよ。実は今日あたり、君のところに行ってみようかなって、いっぱい同情してもらおうと思ってたのに」
「わけを言わないと同情もできないよ」
「わけはあとで話すよ。あまりに憂鬱になっちゃって、散歩に出てきたくらいなんだもん。ちょっとは察してよ」
「それで、君はなんで今頃公園とか散歩してるわけ?」
「あ、君の顔ってヘンだよ。日の当たってる右側は血色いいけど、影になってる左側は色悪い。変だね。鼻を境に悲劇と喜劇の仮面が半分ずつくっついてるみたい」
原文 (会話文抽出)
「僕だって三年も大学にいて多少の哲学書や文学書を読んでるじゃないか。こう見えても世の中が、どれほど悲観すべきものであるかぐらいは知ってるつもりだ」
「書物の上でだろう」
「書物の上――書物の上では無論だが、実際だって、これでなかなか苦痛もあり煩悶もあるんだよ」
「だって、生活には困らないし、時間は充分あるし、勉強はしたいだけ出来るし、述作は思う通りにやれるし。僕に較べると君は実に幸福だ」
「ところが裏面はなかなかそんな気楽なんじゃないさ。これでもいろいろ心配があって、いやになるのだよ」
「そうかなあ」
「そう君まで茶かしちゃ、いよいよつまらなくなる。実は今日あたり、君の所へでも出掛けて、大に同情してもらおうかと思っていたところさ」
「訳をきかせなくっちゃ同情も出来ないね」
「訳はだんだん話すよ。あんまり、くさくさするから、こうやって散歩に来たくらいなものさ。ちっとは察しるがいい」
「そうして、君はまたなんで今頃公園なんか散歩しているんだね」
「や、君の顔は妙だ。日の射している右側の方は大変血色がいいが、影になってる方は非常に色沢が悪い。奇妙だな。鼻を境に矛盾が睨めこをしている。悲劇と喜劇の仮面を半々につぎ合せたようだ」