夏目漱石 『野分』 「教師をおやめなさるって、これから何をなさ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『野分』

現代語化

「先生、やめたら何するの?」
「別に決めてないけど、何とかなるでしょ」
「何とかなるって、夢物語じゃないの?」
「そうかも。あんまりハッキリしてない」
「呑気すぎだよ。あなたは男だからいいけど、私のことも考えてよ」
「だから田舎には帰らないし、教師にもならない」
「決めるのは勝手だけど、給料がなくなるんでしょ?」
「給料がなくてもお金が入ればいっか」
「お金が入ればいい……それはいいけど」
「なら、問題ないじゃん」
「問題ないって、お金が入るの?」
「うん、多分入ると思う」
「なんで?」
「それは考えてる途中。そんなにすぐ計画できるわけないじゃん」
「だから心配なの。東京に決めたって、計画だけじゃダメでしょ」
「どうもお前は心配性だな」
「心配するわよ。どこに行っても合わないから辞めたんでしょ。私が心配性なら、あなたは超癇癪持ちよ」
「そうかも。でも俺の癇癪は……まあいいや。なんとか東京でやってく」
「お兄さんに頼んでみたら?」
「うん、それもいいけど。兄は人の世話するタイプじゃないよ」
「あら、何でも自分だけで決めつけるから悪いんだよ。昨日もあんなに親切にいろいろ言ってくれたじゃない」
「昨日か。昨日はいろいろ世話を焼くようなことを言ったけど……」
「言ってもダメなの?」
「ダメじゃないけど……あんまり当てにならないから」
「なんで?」
「それはそのうちわかるさ」
「じゃあお友達にお願いして、明日からでも動いてもらったら?」
「友達? そもそも友達なんていない。同級生はみんなバラバラになっちゃった」
「毎年年賀状を送ってくる足立さんとか、東京で偉くなってるじゃん」
「足立か、うん、大学の先生だっけ」
「そう。あなたみたいに鼻にかけちゃダメよ。大学の先生って素敵じゃない」
「そうかな。じゃ足立のところに行ってみようか。でもお金が入れば、必ず足立のところに行く必要はない」
「あら、まだそんなこと言ってるの。超強情ね」
「うん、俺は超強情だよ」

原文 (会話文抽出)

「教師をおやめなさるって、これから何をなさるおつもりですか」
「別にこれと云うつもりもないがね、まあ、そのうち、どうかなるだろう」
「その内どうかなるだろうって、それじゃまるで雲を攫むような話しじゃありませんか」
「そうさな。あんまり判然としちゃいない」
「そう呑気じゃ困りますわ。あなたは男だからそれでようござんしょうが、ちっとは私の身にもなって見て下さらなくっちゃあ……」
「だからさ、もう田舎へは行かない、教師にもならない事にきめたんだよ」
「きめるのは御勝手ですけれども、きめたって月給が取れなけりゃ仕方がないじゃありませんか」
「月給がとれなくっても金がとれれば、よかろう」
「金がとれれば……そりゃようござんすとも」
「そんなら、いいさ」
「いいさって、御金がとれるんですか、あなた」
「そうさ、まあ取れるだろうと思うのさ」
「どうして?」
「そこは今考え中だ。そう着、早々計画が立つものか」
「だから心配になるんですわ。いくら東京にいるときめたって、きめただけの思案じゃ仕方がないじゃありませんか」
「どうも御前はむやみに心配性でいけない」
「心配もしますわ、どこへいらしっても折合がわるくっちゃ、おやめになるんですもの。私が心配性なら、あなたはよっぽど癇癪持ちですわ」
「そうかも知れない。しかしおれの癇癪は……まあ、いいや。どうにか東京で食えるようにするから」
「御兄さんの所へいらしって御頼みなすったら、どうでしょう」
「うん、それも好いがね。兄はいったい人の世話なんかする男じゃないよ」
「あら、そう何でも一人できめて御しまいになるから悪るいんですわ。昨日もあんなに親切にいろいろ言って下さったじゃありませんか」
「昨日か。昨日はいろいろ世話を焼くような事を言った。言ったがね……」
「言ってもいけないんですか」
「いけなかないよ。言うのは結構だが……あんまり当にならないからな」
「なぜ?」
「なぜって、その内だんだんわかるさ」
「じゃ御友達の方にでも願って、あしたからでも運動をなすったらいいでしょう」
「友達って別に友達なんかありゃしない。同級生はみんな散ってしまった」
「だって毎年年始状を御寄こしになる足立さんなんか東京で立派にしていらっしゃるじゃありませんか」
「足立か、うん、大学教授だね」
「そう、あなたのように高くばかり構えていらっしゃるから人に嫌われるんですよ。大学教授だねって、大学の先生になりゃ結構じゃありませんか」
「そうかね。じゃ足立の所へでも行って頼んで見ようよ。しかし金さえ取れれば必ず足立の所へ行く必要はなかろう」
「あら、まだあんな事を云っていらっしゃる。あなたはよっぽど強情ね」
「うん、おれはよっぽど強情だよ」


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