夏目漱石 『吾輩は猫である』 「先生胃病は近来いいですか。こうやって、う…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「先生、胃の調子は最近はいいですか?ずっと家にこもってるから」
「別に悪くないよ」
「いや、でも顔色が良くない。黄色いですよ。最近は釣りに行ってるみたいですね?品川から船を借りて――僕もこないだの日曜に行ってきたんですが」
「釣れましたか?」
「何も釣れませんでした」
「釣れなくても楽しいんですか?」
「浩然の気を養うんですよ。皆さん、釣りってしたことありますか?楽しいですよ。大 海原を小舟で走り回すんでしょ」
「僕は大海原を大船で走り回したいですね」
「せっかく釣りに行くなら、鯨か人魚でも釣らないと面白くないです」
「そんなの釣れるわけないでしょ。文学者って常識ないですね……」
「僕は文学者じゃないです」
「そうなんですか?じゃあ何なんですか?僕みたいなビジネスマンになると常識が一番大事なんですよ。先生、最近は大分常識的になってきました。あんなところにずっといると、周りが常識人ばかりなんで、自然とそうなるんです」
「どうなってしまうんですか?」
「例えば、タバコを吸うにしても、朝日とか敷島じゃダメなんですよ」
「そんな贅沢に金があるんですか?」
「金はないけど、そのうちなんとかなるかな。このタバコを吸ってるだけで、信用が全然違いますよ」
「寒月先生が真珠を磨くより楽な信用ですね。手間がかからない。軽便信用ってところでしょうか」
「先生が寒月さんですか?博士にはまだならないんですか?先生が博士にならないから、僕がいただくことにしたんですよ」
「博士をですか?」
「違います、金田家の娘さんです。実は気の毒だと思ったんですけど、向こうから『ぜひ貰ってほしい』と言うんで、結局貰うことに決めたんです。でも、寒月さんに悪い気がして心配してるんです」
「遠慮しないでください」
「貰いたければ貰えばいいんです」
「それはおめでたい話ですね。だから娘ができても心配することはないんですよ。誰でも、さっき僕が言った通り、こんな立派な紳士が婿になる可能性があるんですから。東風さん、新体詩のネタになりましたね。さっそく書いてくださいよ」
「あなたが東風さんですか?結婚式の時に何か作ってください。すぐに活版にしていろんなところに配ります。太陽新聞にも載せてもらいますよ」
「いいですね、何か作りましょう。いつ頃必要ですか?」
「いつでもいいです。今まで作ったものでもいいですよ。その代わり、披露宴に呼んでご馳走してください。シャンパンをいただきますよ。シャンパンって飲んだことありますか?シャンパンはおいしいです――先生、披露宴で楽隊を呼ぶつもりですが、東風さんの詩を楽譜にして演奏したらどうでしょうか?」
「好きにしてください」
「先生、楽譜にしてください」
「バカ言うな」
「誰か、音楽ができる人いませんか?」
「落第しそうになっている寒月君はヴァイオリンが上手いよ。頼んでみたら?でも、シャンパン程度じゃ承知しないかもしれないよ」
「シャンパンもですね、1本4円とか5円じゃダメですよ。僕の御馳走するのはそんな安物じゃないです。だから、ひとつ楽譜を作ってくれませんか?」
「作りますよ、1本20銭のシャンパンでも作ります。タダでもいいですよ」
「タダはダメです、お礼はします。シャンパンじゃ嫌なら、こんなお礼はどうでしょうか?」

原文 (会話文抽出)

「先生胃病は近来いいですか。こうやって、うちにばかりいなさるから、いかんたい」
「まだ悪いとも何ともいやしない」
「いわんばってんが、顔色はよかなかごたる。先生顔色が黄ですばい。近頃は釣がいいです。品川から舟を一艘雇うて――私はこの前の日曜に行きました」
「何か釣れたかい」
「何も釣れません」
「釣れなくっても面白いのかい」
「浩然の気を養うたい、あなた。どうですあなたがた。釣に行った事がありますか。面白いですよ釣は。大きな海の上を小舟で乗り廻わしてあるくのですからね」
「僕は小さな海の上を大船で乗り廻してあるきたいんだ」
「どうせ釣るなら、鯨か人魚でも釣らなくっちゃ、詰らないです」
「そんなものが釣れますか。文学者は常識がないですね。……」
「僕は文学者じゃありません」
「そうですか、何ですかあなたは。私のようなビジネス・マンになると常識が一番大切ですからね。先生私は近来よっぽど常識に富んで来ました。どうしてもあんな所にいると、傍が傍だから、おのずから、そうなってしまうです」
「どうなってしまうのだ」
「煙草でもですね、朝日や、敷島をふかしていては幅が利かんです」
「そんな贅沢をする金があるのかい」
「金はなかばってんが、今にどうかなるたい。この煙草を吸ってると、大変信用が違います」
「寒月君が珠を磨くよりも楽な信用でいい、手数がかからない。軽便信用だね」
「あなたが寒月さんですか。博士にゃ、とうとうならんですか。あなたが博士にならんものだから、私が貰う事にしました」
「博士をですか」
「いいえ、金田家の令嬢をです。実は御気の毒と思うたですたい。しかし先方で是非貰うてくれ貰うてくれと云うから、とうとう貰う事に極めました、先生。しかし寒月さんに義理がわるいと思って心配しています」
「どうか御遠慮なく」
「貰いたければ貰ったら、いいだろう」
「そいつはおめでたい話だ。だからどんな娘を持っても心配するがものはないんだよ。だれか貰うと、さっき僕が云った通り、ちゃんとこんな立派な紳士の御聟さんが出来たじゃないか。東風君新体詩の種が出来た。早速とりかかりたまえ」
「あなたが東風君ですか、結婚の時に何か作ってくれませんか。すぐ活版にして方々へくばります。太陽へも出してもらいます」
「ええ何か作りましょう、いつ頃御入用ですか」
「いつでもいいです。今まで作ったうちでもいいです。その代りです。披露のとき呼んで御馳走するです。シャンパンを飲ませるです。君シャンパンを飲んだ事がありますか。シャンパンは旨いです。――先生披露会のときに楽隊を呼ぶつもりですが、東風君の作を譜にして奏したらどうでしょう」
「勝手にするがいい」
「先生、譜にして下さらんか」
「馬鹿云え」
「だれか、このうちに音楽の出来るものはおらんですか」
「落第の候補者寒月君はヴァイオリンの妙手だよ。しっかり頼んで見たまえ。しかしシャンパンくらいじゃ承知しそうもない男だ」
「シャンパンもですね。一瓶四円や五円のじゃよくないです。私の御馳走するのはそんな安いのじゃないですが、君一つ譜を作ってくれませんか」
「ええ作りますとも、一瓶二十銭のシャンパンでも作ります。なんならただでも作ります」
「ただは頼みません、御礼はするです。シャンパンがいやなら、こう云う御礼はどうです」


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