夏目漱石 『吾輩は猫である』 「叔母さん、この油壺が珍品ですとさ。きたな…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「おばさん、この油壺が珍しいらしいよ。汚いじゃん」
「それを吉原で買ったの?ひどい」
「何でひどいんだよ。わかってもしないくせに」
「そんな壺なら吉原に行かなくても、どこでもあるでしょ」
「それがそうじゃないんだよ。珍しいやつなんだって」
「叔父さんって頑固だよね」
「生意気なこと言うな。今の女学生って口が悪いよな。少しは本でも読みなさいよ」
「叔父さんは保険嫌いなんでしょ。女学生とどっちが嫌い?」
「保険は嫌じゃないよ。必要なものだもん。未来のことを考えてる人はみんな入ってる。女学生なんていらないもんだ」
「いらないものだっていいじゃない。保険にも入ってないくせに」
「来月から入るつもりだよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「やめてよ、保険なんて。それよりそのお金で何か買ったほうがいいよ。ねえ、おばさん」
「あなたが長生きするつもりだからそんな呑気なこと言えるのよ。もう少し大人になったら、保険が必要だってわかるわ。絶対来月から入るんだから」
「そうなの。じゃあ仕方ない。でも前にみたいに蝙蝠傘を買ってくれるお金があるなら、保険に入れたほうがいいかもよ。いらない、いらないって言うのに無理やり買ってもらったんでしょ」
「そんなにいらなかったのか?」
「うん、蝙蝠傘なんていらなかった」
「じゃあ返すか。ちょうど従妹が欲しいって言ってたから、あの子にあげるよ。今日持ってきた?」
「えー、それはひどいよ。せっかく買ってくれたのに、返すなんて」
「いらないって言ったから返すんだよ。ひどくもない」
「いらないって言ったけど、返すのは嫌」
「わけわかんないよ。いらないって言ったから返すのに、なんで嫌なんだ?」
「だって」
「だって、なんだよ」
「だって嫌だもん」
「頭悪いな、同じことばっかり言ってる」
「叔父さんだって同じことばっかり言ってるじゃない」
「お前が言うからしゃーないじゃん。さっきいらないって言ったじゃん」
「うん、言ったけど。いらないものはいらないけど、返すのは嫌だよ」
「びっくりしたな。わけわかんないし頑固だし。お前の学校って論理学教えてないの?」
「いいじゃん。どうせ何もわかんないんだから、好きに言ってよ。人のものを返せだなんて、他人だってそんなひどいこと言わないよ。もっとまともになりなさいよ」
「なんだよ、まともになるって?」
「正直になって、素直になりなさいって」
「お前は頭が悪いのに生意気だなぁ。だから留年するんだよ」
「留年したって叔父さんに学費なんて出してもらえないんだから」

原文 (会話文抽出)

「叔母さん、この油壺が珍品ですとさ。きたないじゃありませんか」
「それを吉原で買っていらしったの? まあ」
「何がまあだ。分りもしない癖に」
「それでもそんな壺なら吉原へ行かなくっても、どこにだってあるじゃありませんか」
「ところがないんだよ。滅多に有る品ではないんだよ」
「叔父さんは随分石地蔵ね」
「また小供の癖に生意気を云う。どうもこの頃の女学生は口が悪るくっていかん。ちと女大学でも読むがいい」
「叔父さんは保険が嫌でしょう。女学生と保険とどっちが嫌なの?」
「保険は嫌ではない。あれは必要なものだ。未来の考のあるものは、誰でも這入る。女学生は無用の長物だ」
「無用の長物でもいい事よ。保険へ這入ってもいない癖に」
「来月から這入るつもりだ」
「きっと?」
「きっとだとも」
「およしなさいよ、保険なんか。それよりかその懸金で何か買った方がいいわ。ねえ、叔母さん」
「お前などは百も二百も生きる気だから、そんな呑気な事を云うのだが、もう少し理性が発達して見ろ、保険の必要を感ずるに至るのは当前だ。ぜひ来月から這入るんだ」
「そう、それじゃ仕方がない。だけどこないだのように蝙蝠傘を買って下さる御金があるなら、保険に這入る方がましかも知れないわ。ひとがいりません、いりませんと云うのを無理に買って下さるんですもの」
「そんなにいらなかったのか?」
「ええ、蝙蝠傘なんか欲しかないわ」
「そんなら還すがいい。ちょうどとん子が欲しがってるから、あれをこっちへ廻してやろう。今日持って来たか」
「あら、そりゃ、あんまりだわ。だって苛いじゃありませんか、せっかく買って下すっておきながら、還せなんて」
「いらないと云うから、還せと云うのさ。ちっとも苛くはない」
「いらない事はいらないんですけれども、苛いわ」
「分らん事を言う奴だな。いらないと云うから還せと云うのに苛い事があるものか」
「だって」
「だって、どうしたんだ」
「だって苛いわ」
「愚だな、同じ事ばかり繰り返している」
「叔父さんだって同じ事ばかり繰り返しているじゃありませんか」
「御前が繰り返すから仕方がないさ。現にいらないと云ったじゃないか」
「そりゃ云いましたわ。いらない事はいらないんですけれども、還すのは厭ですもの」
「驚ろいたな。没分暁で強情なんだから仕方がない。御前の学校じゃ論理学を教えないのか」
「よくってよ、どうせ無教育なんですから、何とでもおっしゃい。人のものを還せだなんて、他人だってそんな不人情な事は云やしない。ちっと馬鹿竹の真似でもなさい」
「何の真似をしろ?」
「ちと正直に淡泊になさいと云うんです」
「お前は愚物の癖にやに強情だよ。それだから落第するんだ」
「落第したって叔父さんに学資は出して貰やしないわ」


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