夏目漱石 『吾輩は猫である』 「先生教師などをしておったちゃとうていあか…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「先生、教師とかやっててもダメですよ。ちょっと泥棒に入られただけでもすぐ困っちゃう――今から考え方を改めて、実業家でも目指したらどうですか」
「先生は実業家は大嫌いだから、そんなこと言ってもダメよ」
「先生って学校を卒業してから何年ですか?」
「今年で9年目かな」
「9年間も経っても給料が上がらない。どれだけ勉強しても誰も褒めてくれないし、寂しい限りですよ」
「教師は嫌いだけど、実業家はもっと嫌いだ」
「先生って、何でもいいから嫌みたいですね……」
「嫌いじゃないのは奥さんだけですか?」
「一番嫌です」
「生きてるのも嫌なんでしょうか?」
「あまり好きじゃないです」
「先生、ちょっと元気出して散歩でもしないと、身体を壊しちゃいますよ。――それで、実業家になりましょうよ。お金なんて儲けるのは、本当に簡単ですよ」
「儲からないクセに」
「あなた、去年に会社に入ったばかりですよね。それでも先生より貯金してますよ」
「いくら貯金したの?」
「もう50円になりました」
「そもそもあなたの給料ってどれくらいなの?」
「30円です。そのうちを毎月5円ずつ会社で預かって積み立てておいて、いざというときにくれます。――奥さん、小遣いで外濠線の株を少し買ったらどうですか?今買っておけば、3、4カ月後には倍になるんですよ。本当に少しお金があれば、すぐに2倍にも3倍にもなります」
「そんなお金があれば、泥棒に入られても困らないわ」
「だから実業家が一番いいんですよ。先生も法学でも勉強して、会社か銀行に入ってたら、今頃は月収300円、400円になってたのに、もったいないですね。――先生、鈴木藤十郎っていう工学士を知ってますか?」
「うん、昨日来た」
「そうですか?こないだある宴会で会ったときに先生の話をしたら、『そうか、君って苦沙弥さんのところの教え子だったのか?僕も苦沙弥さんとは昔、小石川の寺で一緒に自炊してたことがあるんだ。また行く機会があったらよろしく伝えてくれ。僕もそのうち行くから』って言っていましたよ」
「最近、東京に来たらしいな」
「ええ、今まで九州の炭鉱にいましたが、こないだ東京に配属されました。なかなか気が合う人で、僕とかには友達みたいに話してくれるんです。――先生、あの男がいくら貰ってると思いますか?」
「知らないよ」
「月給が250円で、ボーナスも出るから、平均して400円、500円になるみたいです。偉そうにしてるくせに、先生は解釈文ばかりやってて10年間ずっと同じ服を着てるんですよ。馬鹿らしいです」
「本当に馬鹿らしいな」

原文 (会話文抽出)

「先生教師などをしておったちゃとうていあかんですばい。ちょっと泥棒に逢っても、すぐ困る――一丁今から考を換えて実業家にでもなんなさらんか」
「先生は実業家は嫌だから、そんな事を言ったって駄目よ」
「先生学校を卒業して何年になんなさるか」
「今年で九年目でしょう」
「九年立っても月給は上がらず。いくら勉強しても人は褒めちゃくれず、郎君独寂寞ですたい」
「教師は無論嫌だが、実業家はなお嫌いだ」
「先生は何でも嫌なんだから……」
「嫌でないのは奥さんだけですか」
「一番嫌だ」
「生きていらっしゃるのも御嫌なんでしょう」
「あまり好いてはおらん」
「先生ちっと活溌に散歩でもしなさらんと、からだを壊してしまいますばい。――そうして実業家になんなさい。金なんか儲けるのは、ほんに造作もない事でござります」
「少しも儲けもせん癖に」
「まだあなた、去年やっと会社へ這入ったばかりですもの。それでも先生より貯蓄があります」
「どのくらい貯蓄したの?」
「もう五十円になります」
「一体あなたの月給はどのくらいなの」
「三十円ですたい。その内を毎月五円宛会社の方で預って積んでおいて、いざと云う時にやります。――奥さん小遣銭で外濠線の株を少し買いなさらんか、今から三四個月すると倍になります。ほんに少し金さえあれば、すぐ二倍にでも三倍にでもなります」
「そんな御金があれば泥棒に逢ったって困りゃしないわ」
「それだから実業家に限ると云うんです。先生も法科でもやって会社か銀行へでも出なされば、今頃は月に三四百円の収入はありますのに、惜しい事でござんしたな。――先生あの鈴木藤十郎と云う工学士を知ってなさるか」
「うん昨日来た」
「そうでござんすか、せんだってある宴会で逢いました時先生の御話をしたら、そうか君は苦沙弥君のところの書生をしていたのか、僕も苦沙弥君とは昔し小石川の寺でいっしょに自炊をしておった事がある、今度行ったら宜しく云うてくれ、僕もその内尋ねるからと云っていました」
「近頃東京へ来たそうだな」
「ええ今まで九州の炭坑におりましたが、こないだ東京詰になりました。なかなか旨いです。私なぞにでも朋友のように話します。――先生あの男がいくら貰ってると思いなさる」
「知らん」
「月給が二百五十円で盆暮に配当がつきますから、何でも平均四五百円になりますばい。あげな男が、よかしこ取っておるのに、先生はリーダー専門で十年一狐裘じゃ馬鹿気ておりますなあ」
「実際馬鹿気ているな」


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