夏目漱石 『吾輩は猫である』 「君は何にも知らんからそうでもなかろうなど…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『吾輩は猫である』

現代語化

「お前何も知らねえから、偉そうに黙り込んでるんだろ?この前あの鼻男が来たときの様子見たら、いくら実業家贔屓のお前でもうんざりしたに決まってんだ。ねえ苦沙弥、お前も大活躍だったよな」
「それでもお前の評判より俺の方がいいらしいぜ」
「アハハハ、なかなか自信家だな。サヴェジ・チーとか呼ばれて生徒や教師にからかわれても学校に行けるのも、それくらいじゃねえと無理だよな。俺も負けん気は人一倍だけど、そこまで図太くないよ。感心するわ」
「生徒や教師がちょっとやそっと文句言ったって怖くないよ。サントブーヴっていう超有名な評論家はパリ大学で講義したときめちゃくちゃ不評だったんだって。で、学生の攻撃に対抗するため、外に出るときはいつもナイフを袖に忍ばせて防御してたんだぜ。ブルヌチェルもパリ大学でゾラの小説を攻撃したときは……」
「お前大学教師じゃねえじゃん。ただの予備校の先生なのにそんな偉い人を例に出すのは、小魚が鯨を真似してるようなもんだぞ。そんなこと言ったらますますからかわれるぜ」
「うるせえ。サントブーヴも俺も同じくらいの学者だ」
「すごい考えだな。でも、ナイフを持ち歩くのは危ないからやめたほうがいいよ。大学の教師がナイフなら、予備校の教師はせいぜい小刀くらいか。でも、刃物ってのは危ないから、仲見世で空気銃のおもちゃ買ってきて背負うといいよ。愛嬌があっていいじゃない。ねえ鈴木」
「相変わらず無邪気で面白いな。十年ぶりに会ったのに、窮屈な路地から広い原っぱに出たみたいだ。仲間内の話は気を抜けないよな。何を言っても気を遣わないといけないから、心配で窮屈でマジしんどいよ。話は無難なのにして、昔の学生時代の友達と話せるのがいちばん気楽だな。ああ、今日は迷亭に会えてよかった。ちょっと用事があるから、そろそろ帰るわ」
「俺も行こう。日本橋で寄席があるから、そこまで一緒に行こうぜ」
「お、ちょうどいいな。久しぶりにお散歩でもしようか」

原文 (会話文抽出)

「君は何にも知らんからそうでもなかろうなどと澄し返って、例になく言葉寡なに上品に控え込むが、せんだってあの鼻の主が来た時の容子を見たらいかに実業家贔負の尊公でも辟易するに極ってるよ、ねえ苦沙弥君、君大に奮闘したじゃないか」
「それでも君より僕の方が評判がいいそうだ」
「アハハハなかなか自信が強い男だ。それでなくてはサヴェジ・チーなんて生徒や教師にからかわれてすまして学校へ出ちゃいられん訳だ。僕も意志は決して人に劣らんつもりだが、そんなに図太くは出来ん敬服の至りだ」
「生徒や教師が少々愚図愚図言ったって何が恐ろしいものか、サントブーヴは古今独歩の評論家であるが巴里大学で講義をした時は非常に不評判で、彼は学生の攻撃に応ずるため外出の際必ず匕首を袖の下に持って防禦の具となした事がある。ブルヌチェルがやはり巴里の大学でゾラの小説を攻撃した時は……」
「だって君ゃ大学の教師でも何でもないじゃないか。高がリードルの先生でそんな大家を例に引くのは雑魚が鯨をもって自ら喩えるようなもんだ、そんな事を云うとなおからかわれるぜ」
「黙っていろ。サントブーヴだって俺だって同じくらいな学者だ」
「大変な見識だな。しかし懐剣をもって歩行くだけはあぶないから真似ない方がいいよ。大学の教師が懐剣ならリードルの教師はまあ小刀くらいなところだな。しかしそれにしても刃物は剣呑だから仲見世へ行っておもちゃの空気銃を買って来て背負ってあるくがよかろう。愛嬌があっていい。ねえ鈴木君」
「相変らず無邪気で愉快だ。十年振りで始めて君等に逢ったんで何だか窮屈な路次から広い野原へ出たような気持がする。どうも我々仲間の談話は少しも油断がならなくてね。何を云うにも気をおかなくちゃならんから心配で窮屈で実に苦しいよ。話は罪がないのがいいね。そして昔しの書生時代の友達と話すのが一番遠慮がなくっていい。ああ今日は図らず迷亭君に遇って愉快だった。僕はちと用事があるからこれで失敬する」
「僕もいこう、僕はこれから日本橋の演芸矯風会に行かなくっちゃならんから、そこまでいっしょに行こう」
「そりゃちょうどいい久し振りでいっしょに散歩しよう」


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