夏目漱石 『明暗』 「そりゃ駄目よ。津田の時は自分の事だから、…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『明暗』

現代語化

「それはダメよ。津田さんの時は自分のことだから、自分によく分かったんだけど、他のことになると全然勝手が違って、全然分からないのよ」
「そんなに遠慮しなくていいのよ」
「遠慮じゃないのよ」
「じゃあ冷淡なの?」
「リアさん、知ってるでしょ?女の目は、自分に一番近いものに会った時、初めてよく働くようになるってことを。目で一瞬で10年以上かけて分かるのは、その時だけなのよ。しかもそんな場合は、誰だって一生にそんなにたくさんあるわけじゃないわ。もしかしたら一生に一度も来ないかもしれないわ。だから私なんて目は、まあ盲目みたいなものよ。少なくとも普段は」
「だってお延さんは、そういう明るい目を持ってるんじゃなかったの。だったらどうして私の場合に使ってくれなかったの?」
「使わないんじゃなくて、使えないのよ」
「だって傍目八目って言うじゃないですか。そばにいるあなたには、私よりもっと公平に分かるはずよ」
「じゃあリアさんは傍目八目で一生の運命を決めてしまうつもりなの?」
「そうじゃないけど、参考にはなるでしょう。特にあなたを信じている私にとっては」

原文 (会話文抽出)

「そりゃ駄目よ。津田の時は自分の事だから、自分によく解ったんだけれども、他の事になるとまるで勝手が違って、ちっとも解らなくなるのよ」
「そんなに遠慮しないだってよかないの」
「遠慮じゃないのよ」
「じゃ冷淡なの」
「継子さん、あなた知ってて。女の眼は自分に一番縁故の近いものに出会った時、始めてよく働らく事ができるのだという事を。眼が一秒で十年以上の手柄をするのは、その時に限るのよ。しかもそんな場合は誰だって生涯にそうたんとありゃしないわ。ことによると生涯に一返も来ないですんでしまうかも分らないわ。だからあたしなんかの眼はまあ盲目同然よ。少なくとも平生は」
「だって延子さんはそういう明るい眼をちゃんと持っていらっしゃるんじゃないの。そんならなぜそれをあたしの場合に使って下さらなかったの」
「使わないんじゃない、使えないのよ」
「だって岡目八目って云うじゃありませんか。傍にいるあなたには、あたしより余計公平に分るはずだわ」
「じゃ継子さんは岡目八目で生涯の運命をきめてしまう気なの」
「そうじゃないけれども、参考にゃなるでしょう。ことに延子さんを信用しているあたしには」


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