夏目漱石 『明暗』 「君は相変らず旨そうに食うね。――奥さんこ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『明暗』

現代語化

「君は相変わらず美味しそうに食べるね。――奥さん、この岡本ってやつが今よりもっと食べて、もっと太ってた時、西洋人の肩車に乗った話って聞いたことありますか?」
「きっとそうでしょうね。あまり褒められた話じゃないから、隠してるんですよ」
「何って?」
「大抵重すぎてその外国人を潰したんでしょう」
「だったらまだ自慢になるけど、みんなに見られて恥ずかしかったよ。ロンドンの人混みの中で、デカイ男の肩に乗っかってたんだ。パレードを見るためにね」
「何をでっち上げるんだ。一体それはいつの話?」
「エドワード7世の戴冠式の時だよ。行列を見るためにマンションハウスの前に立ってたんだけど、向こうの人は君より背が高いもんだから、仕方なく一緒にいた下宿の親父に頼んで、肩車してもらったんだって」
「冗談じゃねえよ。それは人違いだ。肩車に乗ったのは知ってるけど、僕じゃない、あのサルだ」
「なるほど、あのサルならよく似合うね。イギリス人が大きくても、君じゃ無理があると思ったよ。――あのサルはまたずいぶんちっちゃいしな」

原文 (会話文抽出)

「君は相変らず旨そうに食うね。――奥さんこの岡本君が今よりもっと食って、もっと肥ってた時分、西洋人の肩車へ乗った話をお聞きですか」
「そうでしょうね、あんまり外聞の好い話じゃないから、きっと隠しているんですよ」
「何が?」
「おおかた重過ぎてその外国人を潰したんでしょう」
「そんならまだ自慢になるが、みんなに変な顔をしてじろじろ見られながら、倫敦の群衆の中で、大男の肩の上へ噛りついていたんだ。行列を見るためにね」
「何を捏造する事やら。いったいそりゃいつの話だね」
「エドワード七世の戴冠式の時さ。行列を見ようとしてマンションハウスの前に立ってたところが、日本と違って向うのものがあんまり君より背丈が高過ぎるもんだから、苦し紛れにいっしょに行った下宿の亭主に頼んで、肩車に乗せて貰ったって云うじゃないか」
「馬鹿を云っちゃいけない。そりゃ人違だ。肩車へ乗った奴はちゃんと知ってるが、僕じゃない、あの猿だ」
「なるほどあの猿ならよく似合うね。いくら英吉利人が大きいたって、どうも君じゃ辻褄が合わな過ぎると思ったよ。――あの猿と来たらまたずいぶん矮小だからな」


青空文庫現代語化 Home リスト