夏目漱石 『明暗』 「嘘よ。あたし芝居なんか行かなくってもいい…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『明暗』

現代語化

「嘘よ。あたし芝居なんか行かなくてもいいのよ。今のはただ甘えただけよ」
「どうしてそんな難しい顔をして、あたしを見るの。――芝居はもうやめるから、この次の日曜日に小林さんのところに行って手術を受けてちょうだい。それでいいでしょう。岡本さんには2、3日中に葉書を出すか、それか私がちょっと行って断わってくるから」
「あなたは行ってもいいんだよ。せっかく誘ってくれたんだから」
「いえ、私もやめとくわ。芝居よりもあなたの健康の方が大事なんですもの」
「手術って、そんなに腫れ物から膿を出すように簡単にいかないんだよ。まず下剤を飲んで腸をきれいに掃除して、それからいよいよ切開するんだけど、出血の危険があるから、傷口にガーゼを詰めたまま、5、6日間じっとして寝てないといけないらしい。だからこの次の日曜日に行ったとしても、どうせ日曜日1日じゃ終わらないんだ。その代わり、日曜が延びて月曜になろうとも火曜になろうとも大して変わらないし、また日曜を繰り上げて明日にしたところで、明後日にしたところで、やっぱり同じことなんだ。その点では楽な病気だね」
「そんなに楽でもないわよ、1週間も寝たきりで動けないんだから」

原文 (会話文抽出)

「嘘よ。あたし芝居なんか行かなくってもいいのよ。今のはただ甘ったれたのよ」
「何だってそんなむずかしい顔をして、あたしを御覧になるの。――芝居はもうやめるから、この次の日曜に小林さんに行って手術を受けていらっしゃい。それで好いでしょう。岡本へは二三日中に端書を出すか、でなければ私がちょっと行って断わって来ますから」
「御前は行ってもいいんだよ。せっかく誘ってくれたもんだから」
「いえ私も止しにするわ。芝居よりもあなたの健康の方が大事ですもの」
「手術ってたって、そう腫物の膿を出すように簡単にゃ行かないんだよ。最初下剤をかけてまず腸を綺麗に掃除しておいて、それからいよいよ切開すると、出血の危険があるかも知れないというので、創口へガーゼを詰めたまま、五六日の間はじっとして寝ているんだそうだから。だからたといこの次の日曜に行くとしたところで、どうせ日曜一日じゃ済まないんだ。その代り日曜が延びて月曜になろうとも火曜になろうとも大した違にゃならないし、また日曜を繰り上げて明日にしたところで、明後日にしたところで、やっぱり同じ事なんだ。そこへ行くとまあ楽な病気だね」
「あんまり楽でもないわあなた、一週間も寝たぎりで動く事ができなくっちゃ」


青空文庫現代語化 Home リスト