夏目漱石 『幻影の盾』 「まあ、よいわ、どうにかなる心配するな。そ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『幻影の盾』

現代語化

「まあ、大丈夫よ。何とかなるから心配しないで。それより南の国の話でもしましょうよ」
「海を渡ると太陽がたくさん出てて、暖かいんだって。それにワインも甘くて、お金が落ちてるんだって。土1升に金1升……嘘じゃないよ、本当の話なんだって。手招きするだけでお金が手に入るんだってさ。もう落ち着いて一か所で話す機会もなさそうだから、シュバルドの遺した話を聞いてよ。そんなに落ち込まないでよ」
「いや、これは失礼しました……何の話をするつもりだったっけ。そうだ、そのワインが湧く、金の土がある海の向こうでの話」
「主が女性に愛された話ですか?」
「はははは、女性にもたくさん近付いちゃったけど、それじゃないよ。プロヴォンサルの伯爵とトゥールーズの伯爵が和睦した宴を見たってことだよ」
「プロヴォンサルの宴?」
「知らないの?暗い島国に住んでたら知らないのも無理ないか。あちらでは誰もが知っているよ、あの和睦の宴を」
「へえ、それで?」
「馬が銀の蹄鉄をつけていて、犬が真珠の首輪をつけている……」
「金のリンゴを食べて、月の露を入れたお風呂に入る……」
「まあ水を差さないで聞いてよ。嘘でも面白いでしょ」
「試合があったら、シミニアンの領主が24頭の白牛に乗って馬場をきれいに整地するんだ。整地したあとに3万枚の金を撒くんだよ。するとアグーの領主が勝者に賞金を出そうと言って10万枚の金を出すんだ。マルテロはご馳走を作るよと言って、ろうそくの炎で焼いた珍味をふるまって、銀の皿やお椀を出し物にするんだ」
「もう十分!」
「もう一つあるよ。最後にレイモンが今まで誰も見たことのない遊びをするんだって言って、馬場の真ん中に30本の杭を立てるんだ。その杭に30頭の名馬をつなぐんだよ。裸馬じゃなくて、鞍も鐙もつけて、手綱も豪華なんだよ。それでね、その真ん中に鎧と刀も30人分、兜はもちろん籠手や脛当も並べるんだ。金額にしたらマルテロのゴチソウよりすごそうだよ。それから周りに薪を山のように積んで、火をつけて、馬も鎧も全部燃やしてしまうんだ。向こうの人は豪勢な遊びをするよねえ」
「そういう国に行ってみろってこと?主も意地っ張りだなあ」
「そんな国には黒い目、黒い髪の男なんていらないよ」
「やっぱり金髪の人のいる場所が恋しいみたいね」
「言うまでもないよ」

原文 (会話文抽出)

「まあ、よいわ、どうにかなる心配するな。それよりは南の国の面白い話でもしょう」
「海一つ向へ渡ると日の目が多い、暖かじゃ。それに酒が甘くて金が落ちている。土一升に金一升……うそじゃ無い、本間の話じゃ。手を振るのは聞きとも無いと云うのか。もう落付いて一所に話す折もあるまい。シワルドの名残の談義だと思うて聞いてくれ。そう滅入らんでもの事よ」
「いやこれは御無礼……何を話す積りであった。おおそれだ、その酒の湧く、金の土に交る海の向での」
「主が女に可愛がられたと云うのか」
「ワハハハ女にも数多近付はあるが、それじゃない。ボーシイルの会を見たと云う事よ」
「ボーシイルの会?」
「知らぬか。薄黒い島国に住んでいては、知らぬも道理じゃ。プロヴォンサルの伯とツールースの伯の和睦の会はあちらで誰れも知らぬものはないぞよ」
「ふむそれが?」
「馬は銀の沓をはく、狗は珠の首輪をつける……」
「金の林檎を食う、月の露を湯に浴びる……」
「まあ水を指さずに聴け。うそでも興があろう」
「試合の催しがあると、シミニアンの太守が二十四頭の白牛を駆って埒の内を奇麗に地ならしする。ならした後へ三万枚の黄金を蒔く。するとアグーの太守がわしは勝ち手にとらせる褒美を受持とうと十万枚の黄金を加える。マルテロはわしは御馳走役じゃと云うて蝋燭の火で煮焼した珍味を振舞うて、銀の皿小鉢を引出物に添える」
「もう沢山じゃ」
「ま一つじゃ。仕舞にレイモンが今まで誰も見た事のない遊びをやると云うて先ず試合の柵の中へ三十本の杭を植える。それに三十頭の名馬を繋ぐ。裸馬ではない鞍も置き鐙もつけ轡手綱の華奢さえ尽してじゃ。よいか。そしてその真中へ鎧、刀これも三十人分、甲は無論小手脛当まで添えて並べ立てた。金高にしたらマルテロの御馳走よりも、嵩が張ろう。それから周りへ薪を山の様に積んで、火を掛けての、馬も具足も皆焼いてしもうた。何とあちらのものは豪興をやるではないか」
「そう云う国へ行って見よと云うに主も余程意地張りだなあ」
「そんな国に黒い眼、黒い髪の男は無用じゃ」
「やはりその金色の髪の主の居る所が恋しいと見えるな」
「言うまでもない」


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