夏目漱石 『行人』 「兄さんはそれでもよく思い切って旅に出かけ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『行人』

現代語化

「お兄ちゃんさ、思い切って旅に出たよね。俺なんかまた延期すると思ってたんだけど」

「しないよ」

「お兄ちゃんって義理堅いから、Hさんと約束した以上は実行するつもりだったんだろうけど……」

「そういうんじゃなくて。それじゃなくて、延期しないのよ」

「じゃ、どういう意味で延期しないの?」

「どういう意味って、――わかるでしょ?」

「俺にはわかんない」

「お兄ちゃんは私に興味がなくなってるのよ」

「興味なくなったから旅行に行ったって言うの?」

「違う。興味なくなったから旅行に出かけて、つまり私を妻と思ってないのよ」

「だから……」

「だから私のことはどうでもいいのよ。だから旅行に出かけたのよ」

「あ、あれ誰?」

「もうそろそろ芳江起こさないとまた夜寝ないで困るよ」

「起きたらすぐお風呂入れてあげてね」

「うん」

「芳江、昼寝してるんだ。静かだと思ったよ」

「さっきなんか拗ねて泣いてたけど、その後寝ちゃった。いくらなんでももう5時だから、そろそろ起こさないと……」

原文 (会話文抽出)

「兄さんはそれでもよく思い切って旅に出かけましたね。僕はことによると今度もまた延ばすかも知れないと思ってたんだが」
「延ばしゃなさらないわよ」
「そりゃ兄さんは義理堅いから、Hさんと約束した以上、それを実行するつもりだったには違ないけれども……」
「そんな意味じゃないのよ。そんな意味じゃなくって、そうして延ばさないのよ」
「じゃどんな意味で延ばさないんです」
「どんな意味って、――解ってるじゃありませんか」
「僕には解らない」
「兄さんは妾に愛想を尽かしているのよ」
「愛想づかしに旅行したというんですか」
「いいえ、愛想を尽かしてしまったから、それで旅行に出かけたというのよ。つまり妾を妻と思っていらっしゃらないのよ」
「だから……」
「だから妾の事なんかどうでも構わないのよ。だから旅に出かけたのよ」
「おやいつ来たの」
「もう好い加減に芳江を起さないとまた晩に寝ないで困るよ」
「起きたらすぐ湯に入れておやんなさいよ」
「ええ」
「芳江は昼寝ですか、どうれで静だと思った」
「先刻何だか拗ねて泣いてたら、それっきり寝ちまったんだよ。何ぼなんでも、もう五時だから、好い加減に起してやらなくっちゃ……」


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