夏目漱石 『行人』 「馬鹿正直なだけに熱心な男だもんだから、と…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『行人』

現代語化

「バカ正直だったから熱心だったんで、結局なんとかなったんだ。やり方も聞いたけど、面倒くさくて忘れちゃったよ。彼がそのあと有楽座に行ったときに、案内係をつかまえていろいろやって、大変手間かけたみたい」
「その女はどこにいたの」
「それは秘密なんだ。名前も住所も一切言っちゃダメになってる。約束だからね。それはいいんだけど、そいつが俺に、その盲目の女のとこに行ってくれって頼むんだ。何でかよくわかんないけど、要するに世間話みたいなもんだろう。本人はえらそうに学問したから、なんやかんや理屈を並べてたけど。結局は、過去と現在をつなげて安心したいんだろ。それにどうして盲目になったのか、それがすごく本人の神経を悩ませてたらしくてね。でもその女と新しくつき合う気はなくて、あと彼女の今の夫のこともあって、自分はわざわざ出かけたくないんだって。しかも昔その女と別れるときに余計なこと言ってたらしい。「俺はちょっと勉強するから、30か36歳になるまでは結婚しない」とか言ってさ。そいつ学校出たらすぐに結婚したから、自分の良心的にはあんまり気分がよくないんだろうな。それで結局、俺が行ってくることになった」
「マジでくだらねえな」
「くだらねえんだけど、結局行ってきたよ」

原文 (会話文抽出)

「馬鹿正直なだけに熱心な男だもんだから、とうとう成功した。その筋道も聞くには聞いたが、くだくだしくって忘れちまったよ。何でも彼がその次に有楽座へ行った時、案内者を捕まえて、何とかかんとかした上に、だいぶ込み入った手数をかけたんだそうだ」
「どこにいたんですその女は」
「それは秘密だ。名前や所はいっさい云われない事になっている。約束だからね。それは好いが、そいつが私にその盲目の女のいる所を訪問してくれと頼むんだね。何という主意か解らないが、つまりは無沙汰見舞のようなものさ。当人に云わせると、学問しただけに、鹿爪らしい理窟を何が条も並べるけれども。つまり過去と現在の中間を結びつけて安心したいのさ。それにどうして盲目になったか、それが大変当人の神経を悩ましていたと見えてね。と云っていまさらその女と新しい関係をつける気はなし、かつは女房子の手前もあるから、自分はわざわざ出かけたくないのさ。のみならず彼がまた昔その女と別れる時余計な事を饒舌っているんです。僕は少し学問するつもりだから三十五六にならなければ妻帯しない。でやむをえずこの間の約束は取消にして貰うんだってね。ところが奴学校を出るとすぐ結婚しているんだから良心の方から云っちゃあまり心持はよくないのだろう。それでとうとう私が行く事になった」
「まあ馬鹿らしい」
「馬鹿らしかったけれどもとうとう行ったよ」


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