夏目漱石 『坑夫』 「じゃね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『坑夫』

現代語化

「じゃ、ね」
「じゃ、ね。とにかく明日の朝、坑道に入ってごらん。案内を一人つけますから。――それからと――そうだ、その前に話しておかないとならないことがあります。一口に坑夫と言っても、簡単な仕事のように思えるでしょうが、外で聞くよりはよっぽど大変な仕事です。まあ、いきなり坑夫になるのは……」
「その体格じゃ、ちょっと難しいかもしれませんね。坑夫でなくても、何でも構いません」
「坑夫の他に何かあるんですか?ここにいる人はみんな坑夫じゃないんですか?」
「銅山にはね、一万人もいてね。それが掘削工、坑道夫、石材工、坑夫と、こう四つに分かれてるんです。掘削工っていうのは、一人前の坑夫になれない奴がなるんで、まあ坑夫の下っ端ですね。坑道夫は簡単に言うと坑道内の大工みたいなものですよ。それから石材工ですが、こいつもただの石を小槌で割ってるだけで、主に子供――さっきも一人来たでしょ?ああいうのが、しばらく坑夫の見習としてやる仕事ですね。まあ、ざっとこんな感じですよ。それで坑夫になると請負仕事だから、運がいいと日に一円にも二円にもなりますが、掘削工は日当で一年中35銭で我慢しなきゃならない。しかもそのうち5割は親方が持ってっちゃうから、病気でもしようものなら手当は半分、つまり17銭5厘ですね。それで蒲団代が一枚3銭――寒いときは必ず2枚必要だから、合わせて6銭と、それに飯代が1日14銭5厘、お菜は別ですよ。――どうですか。もし坑夫になれなかったら、掘削工になる気はありますか?」

原文 (会話文抽出)

「じゃね」
「じゃね。何しろ明日の朝シキへ這入って御覧なさい。案内を一人つけて上げるから。――それからと――そうだ、その前に話して置かなくっちゃなりませんがね。一口に坑夫と云うと、訳もない仕事のように思われましょうが、なかなか外で聞いてるような生容易い業じゃないんで。まあ取っつけから坑夫になるなあ」
「その体格じゃ、ちっとむずかしいかも知れませんね。坑夫でなくっても、好うがすかい」
「坑夫のほかに何かあるんですか。ここにいるものは、みんな坑夫じゃないんですか」
「銅山にはね、一万人も這入っててね。それが掘子に、シチュウに、山市に、坑夫と、こう四つに分れてるんでさあ。掘子ってえな、一人前の坑夫に使えねえ奴がなるんで、まあ坑夫の下働ですね。シチュウは早く云うとシキの内の大工見たようなものかね。それから山市だが、こいつは、ただ石塊をこつこつ欠いてるだけで、おもに子供――さっきも一人来たでしょう。ああ云うのが当分坑夫の見習にやる仕事さね。まあざっと、こんなものですよ。それで坑夫となると請負仕事だから、間が好いと日に一円にも二円にも当る事もあるが、掘子は日当で年が年中三十五銭で辛抱しなければならない。しかもそのうち五分は親方が取っちまって、病気でもしようもんなら手当が半分だから十七銭五厘ですね。それで蒲団の損料が一枚三銭――寒いときは是非二枚要るから、都合で六銭と、それに飯代が一日十四銭五厘、御菜は別ですよ。――どうです。もし坑夫にいけなかったら、掘子にでもなる気はありますかね」


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