夏目漱石 『こころ』 「なるほど容体を聞くと、今が今どうという事…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『こころ』

現代語化

「なるほど様子を聞くと、今は特に問題なさそうですが、病気の性質上、気をつけないとダメですよ」
「本人は病気なのに、気づかないで平気でいるのがあの病気の特徴です。私の知ってる軍人がそうだったんですが、本当に信じられない死に方をしたんですよ。夜中に少し苦しいと言って奥さんを起こしたっきり、朝にはもう死んでたんです。しかも奥さんは夫が寝てると思ってたんだとか」
「私の父もそうなるんでしょうか。それはわかりませんね」
「お医者さんは何て言ってるんですか?」
「お医者さんは治らないと言ってるけど、今は心配ないとも言ってるんです」
「それならいいんじゃないですか。お医者さんがそう言うなら。私が言ったのは症状に気づかなかった人ですよ。しかも軍人なのでかなり無茶してた人です」
「でも人間って、健康でも病気でも、どっちにしても脆いものですね。いつどんなことでどんな死に方をするかわからないから」
「先生もそんなこと考えてるんですか?」
「丈夫な私でも、考えないわけじゃないですよ」
「急にポックリ逝く人もいますよね。自然に。それから一瞬で死ぬ人もいます。不自然な暴力で」
「不自然な暴力って何ですか?」
「私もよくわからないんですが、自殺する人はみんな不自然な暴力を使うんでしょうね」
「じゃあ殺されるのも、同じ不自然な暴力ってことですよね?」
「殺される方は全然考えてなかったんだ。なるほど、そう考えるとそうかも」

原文 (会話文抽出)

「なるほど容体を聞くと、今が今どうという事もないようですが、病気が病気だからよほど気をつけないといけません」
「自分で病気に罹っていながら、気が付かないで平気でいるのがあの病の特色です。私の知ったある士官は、とうとうそれでやられたが、全く嘘のような死に方をしたんですよ。何しろ傍に寝ていた細君が看病をする暇もなんにもないくらいなんですからね。夜中にちょっと苦しいといって、細君を起したぎり、翌る朝はもう死んでいたんです。しかも細君は夫が寝ているとばかり思ってたんだっていうんだから」
「私の父もそんなになるでしょうか。ならんともいえないですね」
「医者は何というのです」
「医者は到底治らないというんです。けれども当分のところ心配はあるまいともいうんです」
「それじゃ好いでしょう。医者がそういうなら。私の今話したのは気が付かずにいた人の事で、しかもそれがずいぶん乱暴な軍人なんだから」
「しかし人間は健康にしろ病気にしろ、どっちにしても脆いものですね。いつどんな事でどんな死にようをしないとも限らないから」
「先生もそんな事を考えてお出ですか」
「いくら丈夫の私でも、満更考えない事もありません」
「よくころりと死ぬ人があるじゃありませんか。自然に。それからあっと思う間に死ぬ人もあるでしょう。不自然な暴力で」
「不自然な暴力って何ですか」
「何だかそれは私にも解らないが、自殺する人はみんな不自然な暴力を使うんでしょう」
「すると殺されるのも、やはり不自然な暴力のお蔭ですね」
「殺される方はちっとも考えていなかった。なるほどそういえばそうだ」


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