夏目漱石 『こころ』 「あなた大変黙り込んじまったのね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『こころ』

現代語化

「あなた、急に黙っちゃったのね」
「何か言うとまた議論を仕掛けるなんて怒られそうですから」
「そんなことはないわよ」
「奥さん、さっきの続きをもう少しさせてください。奥さんには中身のない理屈に聞こえるかもしれませんが、私はそんないい加減なことを言ってるんじゃないんです」
「じゃ言って」
「今、奥さんが急にいなくなったら、先生は今のままで生きていけますか?」
「それはわからないわ、あなた。そんなこと、先生に聞いてみるよりほかはないでしょ。私のところに持ってくる問題じゃないわ」
「奥さん、私は真面目ですよ。だから逃げないでください。正直に答えてください」
「正直よ。正直に言って私はわからないの」
「じゃ奥さんは先生をどのくらい愛してるんですか。これは先生に聞くよりむしろ奥さんに伺っていい質問ですから、あなたに伺います」
「そんなことをわざわざ聞かなくてもいいじゃない」
「真面目に聞いているんです。わかってるでしょ」
「まあそうよ」
「そのくらい先生に尽くしてるあなたが急にいなくなったら、先生はどうなるでしょう。世の中のどこを見ても面白くなさそうな先生は、あなたが急にいなくなったらどうなるでしょう。先生から見てじゃなくて。あなたから見てですよ。あなたから見て、先生は幸せになりますか、不幸になりますか?」
「それは私から見ればわかります。(先生はそう思っていないかもしれませんが)。先生は私を離れれば不幸になるだけです。もしかしたら生きられなくなるかもしれませんよ。こう言うと、うぬぼれみたいですが、私は今先生を人間としてできるだけ幸せにしているんだと信じています。どんな人がいても私ほど先生を幸せにできるものはないと思っています。それだからこうして落ち着いていられるんです」
「その確信が先生の心にいいように映るはずだと思いますが」
「それは別問題よ」
「やっぱり先生から嫌われてるんですか」
「私は嫌われてるとは思いません。嫌われるわけがないんですもの。でも先生は世間が嫌いなんでしょう。世間というか最近は人間が嫌いになってるんでしょう。だからその人間の一人として、私も好かれるはずがないでしょ」

原文 (会話文抽出)

「あなた大変黙り込んじまったのね」
「何かいうとまた議論を仕掛けるなんて、叱り付けられそうですから」
「まさか」
「奥さん、先刻の続きをもう少しいわせて下さいませんか。奥さんには空な理屈と聞こえるかも知れませんが、私はそんな上の空でいってる事じゃないんだから」
「じゃおっしゃい」
「今奥さんが急にいなくなったとしたら、先生は現在の通りで生きていられるでしょうか」
「そりゃ分らないわ、あなた。そんな事、先生に聞いて見るより外に仕方がないじゃありませんか。私の所へ持って来る問題じゃないわ」
「奥さん、私は真面目ですよ。だから逃げちゃいけません。正直に答えなくっちゃ」
「正直よ。正直にいって私には分らないのよ」
「じゃ奥さんは先生をどのくらい愛していらっしゃるんですか。これは先生に聞くよりむしろ奥さんに伺っていい質問ですから、あなたに伺います」
「何もそんな事を開き直って聞かなくっても好いじゃありませんか」
「真面目くさって聞くがものはない。分り切ってるとおっしゃるんですか」
「まあそうよ」
「そのくらい先生に忠実なあなたが急にいなくなったら、先生はどうなるんでしょう。世の中のどっちを向いても面白そうでない先生は、あなたが急にいなくなったら後でどうなるでしょう。先生から見てじゃない。あなたから見てですよ。あなたから見て、先生は幸福になるでしょうか、不幸になるでしょうか」
「そりゃ私から見れば分っています。(先生はそう思っていないかも知れませんが)。先生は私を離れれば不幸になるだけです。あるいは生きていられないかも知れませんよ。そういうと、己惚になるようですが、私は今先生を人間としてできるだけ幸福にしているんだと信じていますわ。どんな人があっても私ほど先生を幸福にできるものはないとまで思い込んでいますわ。それだからこうして落ち付いていられるんです」
「その信念が先生の心に好く映るはずだと私は思いますが」
「それは別問題ですわ」
「やっぱり先生から嫌われているとおっしゃるんですか」
「私は嫌われてるとは思いません。嫌われる訳がないんですもの。しかし先生は世間が嫌いなんでしょう。世間というより近頃では人間が嫌いになっているんでしょう。だからその人間の一人として、私も好かれるはずがないじゃありませんか」


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