夏目漱石 『薤露行』 「橋の袂の柳の裏に、人住むとしも見えぬ庵室…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『薤露行』

現代語化

「橋のたもとの柳の後ろに、人が住んでいるとも思えない庵室があります。試しにノックしてみると、世を捨てた隠者の住まいでした。幸いなことに、冷たい人を担ぎ入れます。兜を脱ぐと目は凍りついていて……」
「薬を掘って、草を煮るのは隠者の常です。ランスロットを蘇生させたのでしょうか」
「生き返らせたようですが、正気の人とは違います。私に戻ってきたランスロットは、本当の私に戻ってきたわけではありません。悪魔に取り憑かれて夢の中で物を言う人のように、よく分からないことを口にします。罪だと叫んだり、王妃――ギニヴィア――シャロットと言ったり。隠者が心を込めて煎じる草の香りも、煮えた頭には少しも涼風を吹きません……」
「私があなたのそばにいたら」
「一晩たぎった脳がようやく落ち着き、昔の穏やかな影がちらちらと心に映る頃、ランスロットは私に去れと言います。心許さない隠者は去るなと言います。そうやって二日経ちました。三日目、私と隠者が目覚めて、病人の顔色が今朝はどうなっているかと寝室を覗くと――いません。剣の先で古い壁に刻み残された句には『罪は私を追いかけ、私は罪を追いかける』と書かれています」
「逃げたのか」
「どこへ」
「どこに行っているのか分かれば、探すこともできるでしょう。茫々と吹く夏野の風に終わりはありません。東西の分かれ目は曖昧なので、私は一人戻りません。――隠者は言います。病人が回復して去った。あなたの友人は危ない。狂って走っている方向はキャメロットでしょうと。夢の中でつぶやいた言葉でそう悟ったようですが、私には確信がありません」

原文 (会話文抽出)

「橋の袂の柳の裏に、人住むとしも見えぬ庵室あるを、試みに敲けば、世を逃れたる隠士の居なり。幸いと冷たき人を担ぎ入るる。兜を脱げば眼さえ氷りて……」
「薬を掘り、草を煮るは隠士の常なり。ランスロットを蘇してか」
「よみ返しはしたれ。よみにある人と択ぶ所はあらず。われに帰りたるランスロットはまことのわれに帰りたるにあらず。魔に襲われて夢に物いう人の如く、あらぬ事のみ口走る。あるときは罪々と叫び、あるときは王妃――ギニヴィア――シャロットという。隠士が心を込むる草の香りも、煮えたる頭には一点の涼気を吹かず。……」
「枕辺にわれあらば」
「一夜の後たぎりたる脳の漸く平らぎて、静かなる昔の影のちらちらと心に映る頃、ランスロットはわれに去れという。心許さぬ隠士は去るなという。とかくして二日を経たり。三日目の朝、われと隠士の眠覚めて、病む人の顔色の、今朝如何あらんと臥所を窺えば――在らず。剣の先にて古壁に刻み残せる句には罪はわれを追い、われは罪を追うとある」
「逃れしか」
「いずこへ」
「いずこと知らば尋ぬる便りもあらん。茫々と吹く夏野の風の限りは知らず。西東日の通う境は極めがたければ、独り帰り来ぬ。――隠士はいう、病怠らで去る。かの人の身は危うし。狂いて走る方はカメロットなるべしと。うつつのうちに口走れる言葉にてそれと察せしと見ゆれど、われは確と、さは思わず」


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