夏目漱石 『彼岸過迄』 「おれはそう思うんだ。だから少しも隠す必要…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『彼岸過迄』

現代語化

「私はそう思うんだ。だから隠す必要なんて全く感じてない。あなたも健全な精神を持ってるなら、私と同じように思うはずじゃない?そう思えないんだったら、それはあなたのひねくれだってことだよ。分かった?」
「分かりました。よく分かりました」
「分かったらそれでいい。この問題についてあれこれ言うのはやめよう」
「もう言いません。もうこのことについてあなたを煩わせるようなことは二度とありません。なるほどあなたのおっしゃる通り、私はひねくれた解釈ばかりしていました。私はあなたのお話を聞くまではとても怖かったんです。胸が締め付けられるほど怖かったです。でもお話を聞いて全てがはっきりしたら、逆に安心しました。もう怖いことも不安なこともありません。その代わり、急に心細くなりました。寂しいです。世の中にたった一人取り残されたような気がします」
「だって、お母さんはこれまでと同じお母さんだよ。私も今までと同じ私だよ。あなたに対して態度が変わる人間なんていないんだよ。神経質になっちゃダメだよ」
「神経質にならなくても、寂しいものは寂しいんだから仕方ありません。これから家に帰って、母さんの顔をみたら絶対泣いてしまうと思います。今からその時の涙を想像しただけでも寂しくてたまりません」
「お母さんには黙ってる方がいいよ」
「もちろん話したりしません。話したら母さんがどんなに辛い顔をされるか分かりません」

原文 (会話文抽出)

「おれはそう思うんだ。だから少しも隠す必要を認めていない。御前だって健全な精神を持っているなら、おれと同じように思うべきはずじゃないか。もしそう思う事ができないというなら、それがすなわち御前の僻みだ。解ったかな」
「解りました。善く解りました」
「解ったらそれで好い、もうその問題についてかれこれというのは止しにしようよ」
「もう止します。もうけっしてこの事について、あなたを煩らわす日は来ないでしょう。なるほどあなたのおっしゃる通り僕は僻んだ解釈ばかりしていたのです。僕はあなたの御話を聞くまでは非常に怖かったです。胸の肉が縮まるほど怖かったです。けれども御話を聞いてすべてが明白になったら、かえって安心して気が楽になりました。もう怖い事も不安な事もありません。その代り何だか急に心細くなりました。淋しいです。世の中にたった一人立っているような気がします」
「だって御母さんは元の通りの御母さんなんだよ。おれだって今までのおれだよ。誰も御前に対して変るものはありゃしないんだよ。神経を起しちゃいけない」
「神経は起さなくっても淋しいんだから仕方がありません。僕はこれから宅へ帰って母の顔を見るときっと泣くにきまっています。今からその時の涙を予想しても淋しくってたまりません」
「御母さんには黙っている方がよかろう」
「無論話しゃしません。話したら母がどんな苦しい顔をするか分りません」


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