夏目漱石 『彼岸過迄』 「私はそんな裏表のある人間と見えますかね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『彼岸過迄』

現代語化

「私はそんな裏表のある人間に見えますか?」
「さあどうですかね。そんな細かいことは初めて会っただけでは分かりませんよ。でもたとえあったとしてもなかったとしても、私があなたに対する態度を変えるわけじゃないからいいじゃないですか」
「でも田口さんからそう思われちゃ……」
「田口はあなただからそう思うわけじゃない。誰に対してもそう思うんだから仕方がないんです。ああして長い間人間を使っていると、だいぶ騙されないといけなくなるからね。たまに変に飾らない人間が目の前に現れても、やっぱり信用できないんです。それが田口のような人の業(ごう)だと思えばいいじゃないですか。田口は私の義兄だから、こう言うと変な感じがしますが、本当はすごくいい人なんです。決して悪い人じゃない。ただ長い間『事業を成功させる』ということしか頭に置いてなくて、世の中と戦っているうちに、人間の見る目がすごく偏ってきてしまった。こいつは役に立つか、こいつは安心して使えるか、そんなことばかり考えてるんです。そうなると女の子に惚れられても『これは本当に自分に惚れたのか?お金に惚れたのではないか?』って、すぐ疑っちゃうんです。美人でさえそうなんだから、あなたみたいな男の子が冷たい扱いを受けるのは仕方ないと思わなきゃいけない。それが田口の田口たる所以なんですから」

原文 (会話文抽出)

「私はそんな裏表のある人間と見えますかね」
「どうだか、そんな細かい事は初めて会っただけじゃ分らないですよ。しかしあっても無くっても、僕の君に対する待遇にはいっこう関係がないからいいじゃありませんか」
「けれども田口さんからそう思われちゃ……」
「田口は君だからそう思うんじゃない、誰を見てもそう思うんだから仕方がないさ。ああして長い間人を使ってるうちには、だいぶ騙されなくっちゃならないからね。たまに自然そのままの美くしい人間が自分の前に現われて来ても、やっぱり気が許せないんです。それがああ云う人の因果だと思えばそれで好いじゃないか。田口は僕の義兄だから、こう云うと変に聞えるが、本来は美質なんです。けっして悪い男じゃない。ただああして何年となく事業の成功という事だけを重に眼中に置いて、世の中と闘かっているものだから、人間の見方が妙に片寄って、こいつは役に立つだろうかとか、こいつは安心して使えるだろうかとか、まあそんな事ばかり考えているんだね。ああなると女に惚れられても、こりゃ自分に惚れたんだろうか、自分の持っている金に惚れたんだろうか、すぐそこを疑ぐらなくっちゃいられなくなるんです。美人でさえそうなんだから君見たいな野郎が窮屈な取扱を受けるのは当然だと思わなくっちゃいけない。そこが田口の田口たるところなんだから」


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