GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』
現代語化
「受け取ってください」
「行きましょう。――車で来たんですか?」
「はい」
「この額が乗りますか?」
「乗ります」
「じゃあ」
「ちょっと待って。――糸子さん、あなたもちょっと待って。何に不満があって実家を出るのか知らないけど、少しは私の気持ちも考えてくれないと、私が世間に顔向けできないじゃない」
「世間なんてどうでもいいです」
「そんな勝手なことを言って、――我儘な子供みたい」
「子供ならそれでいいです。子供に戻れればそれでいいです」
「またそんな。――せっかく子供から大人になったんじゃないか。これまで育ててきたのは、簡単なことじゃないよ。あなたも分かってよ」
戯」
「考えたから出るんです」
「どうして、そんな無理を言うんだろうね。――それもこれもみんな私の至らないところから始まったことだから、今さら泣いたり説得したりしても無駄だけど、――私は――亡くなったお父さんに――」
「お父さんは大丈夫です。何も言いません」
「言わないって――そんな意地を張って私を責めなくてもいいじゃないか」
原文 (会話文抽出)
「兄が欽吾さんを連れて来いと申しましたから参りました」
「受取って下さい」
「行きましょう。――車で来たんですか」
「ええ」
「この額が乗りますか」
「乗ります」
「じゃあ」
「少し御待ちよ。――糸子さんも少し待ってちょうだい。何が気に入らないで、親の家を出るんだか知らないが、少しは私の心持にもなって見てくれないと、私が世間へ対して面目がないじゃないか」
「世間はどうでも構わないです」
「そんな聞訳のない事を云って、――頑是ない小供みたように」
「小供なら結構です。小供になれれば結構です」
「またそんな。――せっかく、小供から大人になったんじゃないか。これまでに丹精するのは、一と通りや二た通りの事じゃないよ、御前。少しは考えて御覧な」
「考えたから出るんです」
「どうして、まあ、そんな無理を云うんだろうね。――それもこれもみんな私の不行届から起った事だから、今更泣いたって、口説いたって仕方がないけれども、――私は――亡くなった阿父さんに――」
「阿父さんは大丈夫です。何とも云やしません」
「云やしませんたって――何も、そう、意地にかかって私を苛めなくっても宜さそうなもんじゃないか」