夏目漱石 『虞美人草』 「真面目な処置は、出来るだけ早く、小夜子と…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「真面目な対応としては、できるだけ早く小夜子さんと結婚することです。小夜子さんのことはほっておけませんし、孤堂先生にも申し訳が立ちません。僕が悪かったんです。断ったのはすべて僕のせいなんです。小野さんに対しても申し訳ありません」
「僕に申し訳ないって? まあいいよ、そのうち分かるよ」
「本当に申し訳ないです。――断らなければよかった。断らなければ――浅井はもう断ってしまったんでしょうね?」
「ああ、小野さんが頼んだ通りに断ったらしいよ。でも井上さんは小野さん自身が来て断ってくれって言ってるんだって」
「じゃあ行きます。今からすぐに行って謝ってきます」
「だけど、今僕の父親を井上さんのところに行かせておいたんだ」
「ご父親を?」
「うん、浅井の話だと、ものすごく怒ってるそうなんだ。それからお嬢さんがひどく泣いてるって言うから。僕が小野さんの家に行って相談している間に、何か問題が起きても困ると思って、慰問がてら繋ぎに行くことにしたんだ」
「いろいろとご親切にありがとうございます」
「いやいや、老人は暇を持て余してるんだから、役に立てば喜んで何でもしてくれるよ。で、こういうふうにしておいたんだけど、――もし交渉がまとまったら、車で娘さんを呼びに行くから、こっちによこしてくれって。――来たら、僕のいる前で、娘さんに未来の奥さんだって自分の口から言ってくれ」
「やります。こっちから行ってもいいです」
「いや、ここに呼ぶのは他にも理由があるんだ。それが済んだら3人で甲野に行くんだよ。そうして藤尾さんの前で、もう一度小野さんが宣言するんだ」
「やれんのじゃ!」
「何、僕が小野さんの妻を藤尾さんに紹介してもいいよ」
「そんな必要ありますか?」
「小野さんは真面目になるんだろう。――僕の前で堂々と藤尾さんとの関係を断ち切って見せてくれ。その証拠に小夜子さんを連れてくんだよ」
「連れて行ってもいいですけど、あまり面が立つので――なるべくなら穏便にしたほうが……」
「面が立つのは僕も嫌だけど、藤尾さんを助けるためだから仕方がない。あの人くらいの性格だと、普通の手では直らないよ」
「でも……」
「小野さんが面目ないと感じるのかね。こういうことになって、面目ないとか、具合が悪いとか言ってぐずぐずしてるようじゃ、やっぱり上っ面の行動だよ。小野さんは今真面目になると言ったばかりじゃないか。真面目っていうのは、つまり僕の見解だと、実行につきるんだ。口先だけで真面目になるのは、口先だけ真面目になるだけで、人間が真面目になったんじゃない。小野さんという一人の人間が真面目になったと主張するなら、主張するだけの証拠を実践で示さないと何もならないよ……」
「じゃあやります。どんなに多くの人がいてもいい、やります」
「いいよ」
「ところで、皆さんに打ち明けますが。――実は今日大森に行く約束があるんです」
「大森に。誰と?」
「その――今の人とです」
「藤尾さんとか。何時?」
「3時に駅で待ち合わせるはずだったんです」
「3時と――今何時だか知らないけど」
「もう2時です。小野さんはどうせ行く気ないでしょう?」
「やめるよ」
「藤尾さんが一人で大森に行くのは大丈夫じゃないですよね。うちに行っておけば、きっと帰ってくるでしょう。3時過ぎれば」
「1分でも遅れたら、待ち合わせるつもりはありません。すぐに帰ってくるでしょう」
「ちょうどいい。――雨が降ってきたみたいだ。雨が降っても行く約束なのかい?」
「はい」
「この雨は――なかなか止みそうにない。――手紙で小夜子さんを呼ぼう。父親が待ちくたびれて心配してるだろう」

原文 (会話文抽出)

「真面目な処置は、出来るだけ早く、小夜子と結婚するのです。小夜子を捨てては済まんです。孤堂先生にも済まんです。僕が悪かったです。断わったのは全く僕が悪かったです。君に対しても済まんです」
「僕に済まん? まあそりゃ好い、後で分る事だから」
「全く済まんです。――断わらなければ好かったです。断わらなければ――浅井はもう断わってしまったんでしょうね」
「そりゃ君が頼んだ通り断わったそうだ。しかし井上さんは君自身に来て断われと云うそうだ」
「じゃ、行きます。これから、すぐ行って謝罪って来ます」
「だがね、今僕の阿父を井上さんの所へやっておいたから」
「阿父さんを?」
「うん、浅井の話によると、何でも大変怒ってるそうだ。それから御嬢さんはひどく泣いてると云うからね。僕が君のうちへ来て相談をしているうちに、何か事でも起ると困るから慰問かたがたつなぎにやっておいた」
「どうもいろいろ御親切に」
「なに老人はどうせ遊んでいるんだから、御役にさえ立てば喜んで何でもしてくれる。それで、こうしておいたんだがね、――もし談判が調えば、車で御嬢さんを呼びにやるからこっちへ寄こしてくれって。――来たら、僕のいる前で、御嬢さんに未来の細君だと君の口から明言してやれ」
「やります。こっちから行っても好いです」
「いや、ここへ呼ぶのはまだほかにも用があるからだ。それが済んだら三人で甲野へ行くんだよ。そうして藤尾さんの前で、もう一遍君が明言するんだ」
「やまいだれ+(鼾−自−干)」
「何、僕が君の妻君を藤尾さんに紹介してもいい」
「そう云う必要があるでしょうか」
「君は真面目になるんだろう。――僕の前で奇麗に藤尾さんとの関係を絶って見せるがいい。その証拠に小夜子さんを連れて行くのさ」
「連れて行っても好いですが、あんまり面当になるから――なるべくなら穏便にした方が……」
「面当は僕も嫌だが、藤尾さんを助けるためだから仕方がない。あんな性格は尋常の手段じゃ直せっこない」
「しかし……」
「君が面目ないと云うのかね。こう云う羽目になって、面目ないの、きまりが悪いのと云ってぐずぐずしているようじゃやっぱり上皮の活動だ。君は今真面目になると云ったばかりじゃないか。真面目と云うのはね、僕に云わせると、つまり実行の二字に帰着するのだ。口だけで真面目になるのは、口だけが真面目になるので、人間が真面目になったんじゃない。君と云う一個の人間が真面目になったと主張するなら、主張するだけの証拠を実地に見せなけりゃ何にもならない。……」
「じゃやりましょう。どんな大勢の中でも構わない、やりましょう」
「宜ろしい」
「ところで、みんな打ち明けてしまいますが。――実は今日大森へ行く約束があるんです」
「大森へ。誰と」
「その――今の人とです」
「藤尾さんとかね。何時に」
「三時に停車場で出合うはずになっているんですが」
「三時と――今何時か知らん」
「もう二時だ。君はどうせ行くまい」
「廃すです」
「藤尾さん一人で大森へ行く事は大丈夫ないね。うちやっておいたら帰ってくるだろう。三時過になれば」
「一分でも後れたら、待ち合す気遣ありません。すぐ帰るでしょう」
「ちょうど好い。――何だか、降って来たな。雨が降っても行く約束かい」
「ええ」
「この雨は――なかなか歇みそうもない。――とにかく手紙で小夜子さんを呼ぼう。阿父が待ち兼て心配しているに違ない」


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