夏目漱石 『虞美人草』 「僕のうちへ来ないか」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「俺んちに来ないか」
「行っても意味ねえよ」
「嫌なのか?」
「嫌じゃねえけど、意味ねえんだよ」
「甲野さん。頼むから来てくれ。俺やオヤジのためはともかく、イトのためにも来てくれ」
「イトのためって?」
「イトはお前の知り合いだろ。おばさんや藤尾がお前を勘違いしてても、俺がお前を誤解してても、日本中がお前を迫害しても、イトだけは信じてるよ。イトは頭いいわけじゃねえけど、お前の価値を分かってくれてる。お前の気持ちも全部知ってる。イトは俺の妹だけど、すごい奴なんだ。尊敬できる奴だ。イトは金が一文もなくても腐ったりしねえ。甲野さん、イトをもらってやってくれ。家を出たっていい。山奥に行ってもいい。どこへ行ってどう放浪してもいい。どうでもいいからイトを連れて行ってやってくれ。俺はイトに保証を立てたんだ。お前がダメって言ったら妹に合わせる顔がない。たった一人の妹を殺さなきゃいけなくなる。イトはすごい奴だ、誠実な奴だ。正直だよ、お前のために何でもするよ。殺すのはもったいないよ」

原文 (会話文抽出)

「僕のうちへ来ないか」
「君のうちへ行ったって仕方がない」
「厭かい」
「厭じゃないが、仕方がない」
「甲野さん。頼むから来てくれ。僕や阿父のためはとにかく、糸公のために来てやってくれ」
「糸公のために?」
「糸公は君の知己だよ。御叔母さんや藤尾さんが君を誤解しても、僕が君を見損なっても、日本中がことごとく君に迫害を加えても、糸公だけはたしかだよ。糸公は学問も才気もないが、よく君の価値を解している。君の胸の中を知り抜いている。糸公は僕の妹だが、えらい女だ。尊い女だ。糸公は金が一文もなくっても堕落する気遣のない女だ。――甲野さん、糸公を貰ってやってくれ。家を出ても好い。山の中へ這入っても好い。どこへ行ってどう流浪しても構わない。何でも好いから糸公を連れて行ってやってくれ。――僕は責任をもって糸公に受合って来たんだ。君が云う事を聞いてくれないと妹に合す顔がない。たった一人の妹を殺さなくっちゃならない。糸公は尊い女だ、誠のある女だ。正直だよ、君のためなら何でもするよ。殺すのはもったいない」


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