夏目漱石 『虞美人草』 「もったいない事をするのう」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「もったいないことをするね」
「君本当に僕の言うことを聞いてくれるのかい?」
「本当に聞いてるよ。それから」
「それからって、まだ何も話してないじゃないか。――お金の工面はどうでもするけど、君に頼みがあるんだよ」
「だから話してくれ。京都からの知り合いじゃ。何でもするから」
「君ならやってくれるだろうと思って、実は君の帰るのを待ってたんだ」
「そりゃ、いい時に帰って来た。何か交渉するのか?結婚の条件か?最近は無財産な奥さんを貰うのは不便だからね」
「そんなことじゃない」
「でも、そういう条件を付けておく方が君の将来のためにはいいよ。そうすれば僕が保証してやる」
「まあ貰うとなれば、そういう交渉もするかもしれないけど……」
「貰うつもりなんだろう。みんな、そう思ってるよ」
「誰が?」
「誰かって、僕たち」
「そりゃ困る。僕が井上の娘さんを貰うなんて、――そんな堅い約束はないよ」
「そうか。――いや怪しいぞ」
「そう最初から冷やかさないでよ、話にならない」
「ハハハハ。そんなに真面目にならなくてもいいよ。あまりおとなしくしてるのは損だ。もう少し厚かましくしないと」
「まあちょっと待ってくれよ。修業中だから」
「じゃあ練習がてらどこかへ連れて行ってやろうか?」
「どうかわたしごとをよろしく……」
「などと口では言いながら、裏では盛んに修業してるのかも知れないね」
「まさか」
「いや、そんなことはなさそうには見えない。最近すごいお洒落になってきたし。特にさっきのタバコ入れの出所などはすごく怪しい。そう言えばこのタバコも何だか変な匂いがするよ」

原文 (会話文抽出)

「もったいない事をするのう」
「君本当に僕の云う事を聞いてくれるのかい」
「本当に聞いとる。それから」
「それからって、まだ何にも話しゃしないじゃないか。――金の工面はどうでもするが、君に折入って御願があるんだよ」
「だから話せ。京都からの知己じゃ。何でもしてやるぞ」
「君ならやってくれるだろうと思って、実は君の帰るのを待っていたところだ」
「そりゃ、好え時に帰って来た。何か談判でもするのか。結婚の条件か。近頃は無財産の細君を貰うのは不便だからのう」
「そんな事じゃない」
「しかし、そう云う条件を付けて置く方が君の将来のために好えぞ。そうせい。僕が懸合うてやる」
「そりゃ貰うとなれば、そう云う談判にしても好いが……」
「貰う事は貰うつもりじゃろう。みんな、そう思うとるぞ」
「誰が」
「誰がてて、我々が」
「そりゃ困る。僕が井上の御嬢さんを貰うなんて、――そんな堅い約束はないんだからね」
「そうか。――いや怪しいぞ」
「そう頭から冷やかしちゃ話が出来ない」
「ハハハハ。そう真面目にならんでも好い。そうおとなしくちゃ損だぞ。もう少し面の皮を厚くせんと」
「まあ少し待ってくれたまえ。修業中なんだから」
「ちと稽古のためにどっかへ連れて行ってやろうか」
「何分宜しく……」
「などと云って、裏では盛に修業しとるかも知れんの」
「まさか」
「いやそうでないぞ。近頃だいぶ修飾るところをもって見ると。ことにさっきの巻煙草入の出所などははなはだ疑わしい。そう云えばこの煙草も何となく妙な臭がするわい」


青空文庫現代語化 Home リスト