夏目漱石 『虞美人草』 「藤尾、この家と、私が父さんから受け襲いだ…

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青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「藤尾、この家と、俺が父さんから受け継いだ財産は全部やるよ」
「いつ?」
「今日からやる。――その代わり、母さんの面倒は見てくれよ」
「ありがとう」
「お前、宗近に行かないか?」
「え?」
「行かない?どうしても嫌か?」
「嫌です」
「そうか。――そんなに小野さんがいいのか?」
「それを聞いてどうするんですか?」
「なんともしない。俺のためには関係ないことだ。ただお前のために言ってるんだ」
「俺のため?」
「そう」
「兄貴は、小野さんより宗近の方がいいって言ってるんだよね」
「兄貴は兄貴。俺は俺だ」
「兄貴は小野さんよりも宗近の方が、母さんの面倒を見てくれるって言ってるんだよ」
「兄貴は」
「あなたは小野さんの性格を知ってるか?」
「知ってる」
「知ってるわけないじゃん」
「小野さんは詩人です。高尚な詩人です」
「そうか」
「趣味を理解してる人です。愛を理解してる人です。温厚な君子です。――哲学者には分からない性格です。あなたは宗近さんは分かるでしょう。でも小野さんの価値は分かりません。絶対に分かりません。宗近を褒める人には小野さんの価値は分かりません。……」
「じゃあ小野さんにするよ」
「もちろんです」

原文 (会話文抽出)

「藤尾、この家と、私が父さんから受け襲いだ財産はみんな御前にやるよ」
「いつ」
「今日からやる。――その代り、母さんの世話は御前がしなければいけない」
「ありがとう」
「御前宗近へ行く気はないか」
「ええ」
「ない? どうしても厭か」
「厭です」
「そうか。――そんなに小野が好いのか」
「それを聞いて何になさる」
「何にもしない。私のためには何にもならない事だ。ただ御前のために云ってやるのだ」
「私のために?」
「そう」
「兄さんの考では、小野さんより一の方がよかろうと云う話なんだがね」
「兄さんは兄さん。私は私です」
「兄さんは小野さんよりも一の方が、母さんを大事にしてくれると御言いのだよ」
「兄さん」
「あなた小野さんの性格を知っていらっしゃるか」
「知っている」
「知ってるもんですか」
「小野さんは詩人です。高尚な詩人です」
「そうか」
「趣味を解した人です。愛を解した人です。温厚の君子です。――哲学者には分らない人格です。あなたには一さんは分るでしょう。しかし小野さんの価値は分りません。けっして分りません。一さんを賞める人に小野さんの価値が分る訳がありません。……」
「じゃ小野にするさ」
「無論します」


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