夏目漱石 『虞美人草』 「なに小夜さえなければ、京都にいても差し支…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「なぁ、小夜がいなきゃ、京都にいてもいいんだけど、若い娘がいるとやっぱ心配でさ……」
「私はどこの果てで死のうがどうでもいいけど、小夜が一人残ってかわいそうだと思って、この年になってわざわざ東京まで出てきたんだよ。――故郷でももう出てから20年にもなる。知り合いもいないし。まるでよその国みたいだ。それに来てみると、砂ぼこりが立つわ、埃がすごいわ。ごちゃごちゃしてるわ、物価は高いわ。全然住みよくないよ……」
「住みやすい場所じゃないですよね」
「昔は親戚も2、3軒あったんだけど、長いこと連絡してなかったから、今はどこにいるかも分かんない。普段はあんまり思わないんだけど、こうやって半日でも寝ると考えるんだよね。なんだか寂しい」
「なるほど」
「まあ先生がそばにいてくれるのが一番の頼りだよ」
「お役に立ててませんけど……」
「いや、いろいろ親切にしてくれてほんとにありがたいよ。忙しいのにさ……」
「論文の方がないと、まだ暇なんです」
「論文?博士論文だね」
「はい、そうです」
「いつ出すの?」
「今は一生懸命書いてるところです」

原文 (会話文抽出)

「なに小夜さえなければ、京都にいても差し支ないんだが、若い娘を持つとなかなか心配なもので……」
「私などはどこの果で死のうが同じ事だが、後に残った小夜がたった一人で可哀想だからこの年になって、わざわざ東京まで出掛けて来たのさ。――いかな故郷でももう出てから二十年にもなる。知合も交際もない。まるで他国と同様だ。それに来て見ると、砂が立つ、埃が立つ。雑沓はする、物価は貴し、けっして住み好いとは思わない。……」
「住み好い所ではありませんね」
「これでも昔は親類も二三軒はあったんだが、長い間音信不通にしていたものだから、今では居所も分らない。不断はさほどにも思わないが、こうやって、半日でも寝ると考えるね。何となく心細い」
「なるほど」
「まあ御前が傍にいてくれるのが何よりの依頼だ」
「御役にも立ちませんで……」
「いえ、いろいろ親切にしてくれてまことにありがたい。忙しいところを……」
「論文の方がないと、まだ閑なんですが」
「論文。博士論文だね」
「ええ、まあそうです」
「いつ出すのかね」
「今一生懸命に書いてるところです」


青空文庫現代語化 Home リスト