夏目漱石 『虞美人草』 「もし彼人が断然家を出ると云い張りますと―…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「もしあいつが家を出たいって頑固に言うんだったら、――もちろん黙って見てられないけど――でも本人の言うこと聞かないとなったら……」
「婿にするって? 婿になんて……」
「いえ、そんなことになったら大変だけど――万一を考えてないと、いざって時に困るから」
「そりゃそうだ」
「それを考えると、あいつが病気でもよくなって、もう少ししっかりしてくれないうちは、藤尾を嫁に出すわけにはいかない」
「そうね」
「藤尾さんってもういくつ?」
「もう、18になります」
「早いもんだね。つい最近までこんなちっちゃかったのに」
「でも、体ばっかり大きくなって、役に立たないんです」
「……計算すると18になるんだ。うちの糸が16だから」
「こちらでも、糸子さんやら、一さんやらで、心配の中、こんな余計な話をして、さぞかし人の気持ちがわからない呑気な女だと思われるでしょうね……」
「いえ、どういたしまして、実は私の方からそのことについて詳しく相談しようと思ってたところです――一も外交官になるとか、ならないとか騒いでる最中だから、すぐには無理だけど、遅かれ早かれ嫁をもらわないといけないので……」
「そうですよね」
「それで、その、藤尾さんなんですけど」
「はい」
「あの人なら、まあ仲もいいし、私も安心だし、一だって反対しないだろう――いいんじゃないかと思うんだけど」
「はい」
「どう思います? お母さんのご意見は」
「あのままでは心配ですが、そこまでおっしゃっていただくのはありがたいことです……」
「いいじゃないですか」
「そうなれば藤尾も幸せ、私も安心で……」
「不足があるならともかく、それ以外は……」
「不足どころじゃありません。これ以上ないくらいのおめでたい話なんですけど、ただあいつが心配なんです。一さんは宗近家を継ぐ大事な体。藤尾が気にいるかどうかはわかりませんが、とりあえずもらったとして、あげた後も、欽吾があんな調子だと私も実は不安なんですよ……」
「アハハハ、そんなに心配してもきりがないよ。藤尾さんが嫁に行けば欽吾さんにも責任感が生まれるんだから、自然と心構えも変わるさ。そうなりなさい」
「そうなるものですかねえ」
「それにね、お父様が昔おっしゃったこともあるし。そうすれば亡くなった人も喜ぶでしょう」
「いろいろとご親切にありがとうございます。でも配偶者が生きてるうちは、――こ――こんな心配はしなくてもいい――はずなんですけれど」

原文 (会話文抽出)

「もし彼人が断然家を出ると云い張りますと――私がそれを見て無論黙っている訳には参りませんが――しかし当人がどうしても聞いてくれないとすると……」
「聟かね。聟となると……」
「いえ、そうなっては大変でございますが――万一の場合も考えて置かないと、いざと云う時に困りますから」
「そりゃ、そう」
「それを考えると、あれが病気でもよくなって、もう少ししっかりしてくれないうちは、藤尾を片づける訳に参りません」
「左様さね」
「藤尾さんは幾歳ですい」
「もう、明けて四になります」
「早いものですね。えっ。ついこの間までこれっぱかりだったが」
「いえもう、身体ばかり大きゅうございまして、から、役に立ちません」
「……勘定すると四になる訳だ。うちの糸が二だから」
「こちらでも、糸子さんやら、一さんやらで、御心配のところを、こんな余計な話を申し上げて、さぞ人の気も知らない呑気な女だと覚し召すでございましょうが……」
「いえ、どう致して、実は私の方からその事についてとくと御相談もしたいと思っていたところで――一も外交官になるとか、ならんとか云って騒いでいる最中だから、今日明日と云う訳にも行かないですが、晩かれ、早かれ嫁を貰わなければならんので……」
「でございますとも」
「ついては、その、藤尾さんなんですがね」
「はい」
「あの方なら、まあ気心も知れているし、私も安心だし、一は無論異存のある訳はなし――よかろうと思うんですがね」
「はい」
「どうでしょう、阿母の御考は」
「あの通行き届きませんものをそれほどまでにおっしゃって下さるのはまことにありがたい訳でございますが……」
「いいじゃ、ありませんか」
「そうなれば藤尾も仕合せ、私も安心で……」
「御不足ならともかく、そうでなければ……」
「不足どころじゃございません。願ったり叶ったりで、この上もない結構な事でございますが、ただ彼人に困りますので。一さんは宗近家を御襲ぎになる大事な身体でいらっしゃる。藤尾が御気に入るか、入らないかは分りませんが、まず貰っていただいたと致したところで、差し上げた後で、欽吾がやはり今のようでは私も実のところはなはだ心細いような訳で……」
「アハハハそう心配しちゃ際限がありませんよ。藤尾さんさえ嫁に行ってしまえば欽吾さんにも責任が出る訳だから、自然と考もちがってくるにきまっている。そうなさい」
「そう云うものでございましょうかね」
「それに御承知の通、阿父がいつぞやおっしゃった事もあるし。そうなれば亡くなった人も満足だろう」
「いろいろ御親切にありがとう存じます。なに配偶さえ生きておりますれば、一人で――こん――こんな心配は致さなくっても宜しい――のでございますが」


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