夏目漱石 『虞美人草』 「今帰ったよ。どうも苛い埃でね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『虞美人草』

現代語化

「今帰ってきたよ。すごい埃でさ」
「風ないのに?」
「風はないけど、地面が乾いててさ――東京って嫌なところだなあ。京都の方が全然いいね」
「だって「早く東京に引っ越す、引っ越す」って、毎日おっしゃってませんでしたっけ」
「言ってたことは言ってたけど、来てみるとそうでもないね」
「お茶碗が出てるね。誰か来たの?」
「うん。小野さんが来て……」
「小野さんが?そりゃあ」
「今日ね。座布団を買おうと思って、電車に乗ったんだけど、ついつい乗り継ぎを忘れて、大変だった」
「あらら」
「でも座布団は買ってきたの?」
「ああ、座布団だけはどうにか買ったけど、そのせいですごい遅くなっちゃったよ」
「何枚買ったの?」
「3枚さ。まあ3枚あれば当分は大丈夫だろう。じゃあちょっと敷いてみて」
「ハハハ、あなた敷いてくださいよ」
「お父さんも敷くから、あなたも敷いてみて。ほら、なかなかいいでしょ」
「ちょっと綿が固いみたいね」
「綿はまあ――値段の割には仕方ないかな。でもこれを買うために電車に乗り損ねて……」
「乗り継ぎをされなかったんじゃないの?」
「そうなんだ、乗り継ぎを――車掌に頼んでおいたのに。腹が立ったから帰りは歩いてきた」
「お疲れたでしょ」
「いや、足はまだまだ元気だからね。――でもそのせいで髭も何も埃だらけになっちゃった。ほら」

原文 (会話文抽出)

「今帰ったよ。どうも苛い埃でね」
「風もないのに?」
「風はないが、地面が乾いてるんで――どうも東京と云う所は厭な所だ。京都の方がよっぽどいいね」
「だって早く東京へ引き越す、引き越すって、毎日のように云っていらしったじゃありませんか」
「云ってた事は、云ってたが、来て見るとそうでもないね」
「茶碗が出ているね。誰か来たのかい」
「ええ。小野さんがいらしって……」
「小野が? そりゃあ」
「今日はね。座布団を買おうと思って、電車へ乗ったところが、つい乗り替を忘れて、ひどい目に逢った」
「おやおや」
「でも布団は御買いになって?」
「ああ、布団だけはここへ買って来たが、御蔭で大変遅れてしまったよ」
「何枚買っていらしって」
「三枚さ。まあ三枚あれば当分間に合うだろう。さあちょっと敷いて御覧」
「ホホホホあなた御敷なさいよ」
「阿父も敷くから、御前も敷いて御覧。そらなかなか好いだろう」
「少し綿が硬いようね」
「綿はどうせ――価が価だから仕方がない。でもこれを買うために電車に乗り損なってしまって……」
「乗替をなさらなかったんじゃないの」
「そうさ、乗替を――車掌に頼んで置いたのに。忌々しいから帰りには歩いて来た」
「御草臥なすったでしょう」
「なあに。これでも足はまだ達者だからね。――しかし御蔭で髯も何も埃だらけになっちまった。こら」


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