夏目漱石 『硝子戸の中』 「それだけで今日まで経過して来られたのです…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『硝子戸の中』

現代語化

「それだけで今日まで過ごしてきたんですか?」
「まだ使用人だった頃に、ある女性と2年ほどお付き合いしたことがありました。相手は当然芸者ではないのですが。でもその女性はもうこの世にいません。首を吊って死んでしまったんです。19歳でした。10日ほど会わないうちに亡くなってしまったんです。その女性にはね、2人の旦那がいて、どちらも意地を張って、身請け金を競り上げようとしたんです。それに双方とも老妓を味方に付けて、こっちに来い、あっちへ行くなと無理強いしたらしいんです……」
「あなたはそれを助けてあげるわけにいかなかったんですか?」
「当時の私は丁稚がちょっと一人前になったようなもので、とてもどうすることもできなかったんです」
「でもその芸者はあなたのせいで死んだんじゃないんですか?」
「さあ……。一度にどちらの旦那にも尽くすわけにいかなかったからかもしれません。……でも私達2人の間には、どこへも行かないという約束があったはずなんです」
「するとあなたが間接的にその女性を殺したことになるかもしれませんね」
「あるいはそうかもしれません」
「あなたは夜眠れないときはありませんか?」
「どうも眠れないんです」

原文 (会話文抽出)

「それだけで今日まで経過して来られたのですか」
「まだ使用人であった頃に、ある女と二年ばかり会っていた事があります。相手は無論素人ではないのでした。しかしその女はもういないのです。首を縊って死んでしまったのです。年は十九でした。十日ばかり会わないでいるうちに死んでしまったのです。その女にはね、旦那が二人あって、双方が意地ずくで、身受の金を競り上げにかかったのです。それに双方共老妓を味方にして、こっちへ来い、あっちへ行くなと義理責にもしたらしいのです。……」
「あなたはそれを救ってやる訳に行かなかったのですか」
「当時の私は丁稚の少し毛の生えたようなもので、とてもどうもできないのです」
「しかしその芸妓はあなたのために死んだのじゃありませんか」
「さあ……。一度に双方の旦那に義理を立てる訳に行かなかったからかも知れませんが。……しかし私ら二人の間に、どこへも行かないという約束はあったに違ないのです」
「するとあなたが間接にその女を殺した事になるのかも知れませんね」
「あるいはそうかも知れません」
「あなたは寝覚が悪かありませんか」
「どうも好くないのです」


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