夏目漱石 『硝子戸の中』 「あなたの直線というのは比喩じゃありません…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『硝子戸の中』

現代語化

「あなたの言う線というのは比喩ではないですか?もし比喩なら、丸と言っても四角と言っても、つまり同じことになりますよね」
「そうかもしれませんが、形や色が常に変わっている中でも、少しも変わらないものが、どうしてもあるんです」
「その変わるものと変わらないものが別々だとすると、結局心は2つあるということになりますが、それでいいんですか?変わるものはすなわち変わらないものであるはずじゃありませんか?」
「外部から入ってきたものが頭にすぐに整理されて、順番や段落がはっきりするように収まる人は、おそらくいないでしょう。失礼ですが、あなたの年齢や教育や学歴では、そんなにきれいに整理できるわけがありません。もしそういう意味じゃなくて、学問の力を借りずに、徹底的にがさっと整理したいなら、私のようなところへ来てもダメです。お坊さんのところへでも行ってみてください」
「私は初めて先生にお会いした時、先生の心はそういう点で、普通の人以上に整っているように思いました」
「そんなことはありません」
「でも私にはそう見えました。内臓の位置までが整っているようにしか思えませんでした」
「もし内臓がそんなにうまく調整されていたら、こんなにいつも病気にはなりませんよ」
「私は病気にはなりません」
「それはあなたが私より偉い証拠です」
「どうかお体を大切にしてください」

原文 (会話文抽出)

「あなたの直線というのは比喩じゃありませんか。もし比喩なら、円と云っても四角と云っても、つまり同じ事になるのでしょう」
「そうかも知れませんが、形や色が始終変っているうちに、少しも変らないものが、どうしてもあるのです」
「その変るものと変らないものが、別々だとすると、要するに心が二つある訳になりますが、それで好いのですか。変るものはすなわち変らないものでなければならないはずじゃありませんか」
「すべて外界のものが頭のなかに入って、すぐ整然と秩序なり段落なりがはっきりするように納まる人は、おそらくないでしょう。失礼ながらあなたの年齢や教育や学問で、そうきちんと片づけられる訳がありません。もしまたそんな意味でなくって、学問の力を借りずに、徹底的にどさりと納まりをつけたいなら、私のようなものの所へ来ても駄目です。坊さんの所へでもいらっしゃい」
「私は始めて先生を御見上げ申した時に、先生の心はそういう点で、普通の人以上に整のっていらっしゃるように思いました」
「そんなはずがありません」
「でも私にはそう見えました。内臓の位置までが調っていらっしゃるとしか考えられませんでした」
「もし内臓がそれほど具合よく調節されているなら、こんなに始終病気などはしません」
「私は病気にはなりません」
「それはあなたが私より偉い証拠です」
「どうぞ御身体を御大切に」


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