夏目漱石 『坊っちゃん』 「あなたの云う事は本当かも知れないですが―…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『坊っちゃん』

現代語化

「あなたの言うことは正しいかもしれませんけど――とにかく増給は遠慮します」
「それはますます不思議です。今わざわざお越しになったのは、増俸を受けるのが忍びなくて、理由を見つけ出したからだと聞こえましたが、その理由が私の説明で取り払われたにもかかわらず、増俸を断られるのは少し理解できませんね」
「理解できないかもしれませんが、とにかく断ります」
「そんなに拒むなら無理強いはしませんが、二、三時間のうちに特別の理由もないのに意見を変えれば、将来あなたの信用に関わります」
「関わっても構いませんよ」
「そんなことはないはずです、人間にとって信用ほど大切なものはありませんよ。仮に一歩譲って、下宿の主人が……」
「主人じゃなくて、おばあさんです」
「どちらでもいいです。下宿のおばあさんがあなたに話したことを事実としても、あなたの増給は古賀先生の収入を削って得たものではありません。古賀先生は延岡に行かれます。その代わりが来ます。その代わりの人が古賀先生よりも少し安い給料で来てくれれば、その余った分をあなたに回すというのですから、あなたは誰にも気兼ねする必要はないはずです。古賀先生は延岡で今の職より昇進します。新しい先生は最初から安い給料で来てくれます。それであなたも昇給できるので、これほど都合のいいことはないと思うのですが。いやなら断っても構いませんが、もう一度よく考えてみませんか?」

原文 (会話文抽出)

「あなたの云う事は本当かも知れないですが――とにかく増給はご免蒙ります」
「それはますます可笑しい。今君がわざわざお出になったのは増俸を受けるには忍びない、理由を見出したからのように聞えたが、その理由が僕の説明で取り去られたにもかかわらず増俸を否まれるのは少し解しかねるようですね」
「解しかねるかも知れませんがね。とにかく断わりますよ」
「そんなに否なら強いてとまでは云いませんが、そう二三時間のうちに、特別の理由もないのに豹変しちゃ、将来君の信用にかかわる」
「かかわっても構わないです」
「そんな事はないはずです、人間に信用ほど大切なものはありませんよ。よしんば今一歩譲って、下宿の主人が……」
「主人じゃない、婆さんです」
「どちらでもよろしい。下宿の婆さんが君に話した事を事実としたところで、君の増給は古賀君の所得を削って得たものではないでしょう。古賀君は延岡へ行かれる。その代りがくる。その代りが古賀君よりも多少低給で来てくれる。その剰余を君に廻わすと云うのだから、君は誰にも気の毒がる必要はないはずです。古賀君は延岡でただ今よりも栄進される。新任者は最初からの約束で安くくる。それで君が上がられれば、これほど都合のいい事はないと思うですがね。いやなら否でもいいが、もう一返うちでよく考えてみませんか」


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