夏目漱石 『二百十日』 「おおおい。おらんのか」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『二百十日』

現代語化

「おおおい。いるか?」
「おおおい。こっちだよ」
「なんでそんな所に行ったんだよ?」
「ここから上がるんだ」
「上がれるの?」
「上がれるから、早く来いよ」
「おい。ここらへん?」
「そこだ。そこへ、ちょっと、首を出して見てくれ」
「なるほど、こりゃすごい浅い。これなら、俺が蝙蝠傘を上から出したら、それにつかまって上がれるだろう」
「傘だけじゃダメだ。君、気の毒だけど」
「うん。ちっとも気の毒じゃない。どうするんだ?」
「帯を解いて、その先を傘の柄に結びつけて――君の傘の柄は曲ってるだろう?」
「曲ってるとも。大いに曲ってる」
「その曲ってる方へ結びつけてくれないか」
「結びつけるよ。すぐ結びつけるよ」
「結びつけたら、その帯の端を上からぶら下げて」
「ぶら下げるよ。訳ない。大丈夫だから待ってたまえ。――そうら、長いのが天竺から、ぶら下がっただろう」
「君、しっかり傘を握ってないとダメだよ。俺の体重は70キロあるんだから」
「何キロあっても大丈夫だ、安心して上がってくれ」
「いいかい?」
「いいとも」
「そら上がるよ。――いや、いけない。そう、ずり下がって来ては……」
「今度大丈夫だ。今のは試して見ただけだ。さあ上がった。大丈夫だよ」
「君が滑べると、二人共落ちてしまうぜ」
「だから大丈夫だって。今のは傘の持ち方が悪かったんだ」
「君、薄の根に足をかけて持ち応えていて。――あんまり前の方で踏み張ると、崖が崩れて、足が滑べるよ」
「よし、大丈夫。さあ上がった」
「足を踏ん張ったかい。どうも今度も危ないようだな」
「おい」
「何だい?」
「君は俺が力がないと思って、大に心配するがね」
「うん」
「俺だって一人前の人間だよ」
「無論だよ」
「無論なら安心して、俺に信頼したらいいだろう。体は小さいが、友達を一人谷底から救い出すくらいのことは出来るつもりだ」
「じゃ上がるよ。そらっ……」
「そらっ……もう少しだ」

原文 (会話文抽出)

「おおおい。おらんのか」
「おおおい。こっちだ」
「なぜ、そんな所へ行ったんだああ」
「ここから上がるんだああ」
「上がれるのかああ」
「上がれるから、早く来おおい」
「おい。ここいらか」
「そこだ。そこへ、ちょっと、首を出して見てくれ」
「こうか。――なるほど、こりゃ大変浅い。これなら、僕が蝙蝠傘を上から出したら、それへ、取っ捕らまって上がれるだろう」
「傘だけじゃ駄目だ。君、気の毒だがね」
「うん。ちっとも気の毒じゃない。どうするんだ」
「兵児帯を解いて、その先を傘の柄へ結びつけて――君の傘の柄は曲ってるだろう」
「曲ってるとも。大いに曲ってる」
「その曲ってる方へ結びつけてくれないか」
「結びつけるとも。すぐ結びつけてやる」
「結びつけたら、その帯の端を上からぶら下げてくれたまえ」
「ぶら下げるとも。訳はない。大丈夫だから待っていたまえ。――そうら、長いのが天竺から、ぶら下がったろう」
「君、しっかり傘を握っていなくっちゃいけないぜ。僕の身体は十七貫六百目あるんだから」
「何貫目あったって大丈夫だ、安心して上がりたまえ」
「いいかい」
「いいとも」
「そら上がるぜ。――いや、いけない。そう、ずり下がって来ては……」
「今度は大丈夫だ。今のは試して見ただけだ。さあ上がった。大丈夫だよ」
「君が滑べると、二人共落ちてしまうぜ」
「だから大丈夫だよ。今のは傘の持ちようがわるかったんだ」
「君、薄の根へ足をかけて持ち応えていたまえ。――あんまり前の方で蹈ん張ると、崖が崩れて、足が滑べるよ」
「よし、大丈夫。さあ上がった」
「足を踏ん張ったかい。どうも今度もあぶないようだな」
「おい」
「何だい」
「君は僕が力がないと思って、大に心配するがね」
「うん」
「僕だって一人前の人間だよ」
「無論さ」
「無論なら安心して、僕に信頼したらよかろう。からだは小さいが、朋友を一人谷底から救い出すぐらいの事は出来るつもりだ」
「じゃ上がるよ。そらっ……」
「そらっ……もう少しだ」


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