夏目漱石 『二百十日』 「どうも路が違うようだね」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『二百十日』

現代語化

「どうも道が違うみたいだね」
「うん」
「なんだか、情けない顔してるね。苦しいかい」
「本当に情けないんだ」
「どこか痛いのかい」
「豆が一面にできて、たまらない」
「困ったな。よっぽど痛いのかい。僕の肩にもたれたら、どうだね。少しは歩きやすいかもしれない」
「うん」
「宿に着いたら、僕が面白い話をするよ」
「そもそもいつ宿に着くんだい」
「5時には温泉に着く予定だけど、どうも、あの煙が変なんだ。右へ行っても、左へ行っても、目の前にあるばかりで、遠くもならなければ、近くもならない」
「登り始めた時から目の前だよ」
「そうだな。もう少しこの道を進んでみようか」
「うん」
「それとも、少し休むか」
「うん」
「どうも、急に元気がなくなったね」
「全くうどんのせいだよ」
「ハハハハ。その代わり宿に着くと、僕が話のご馳走をするよ」
「話も聞き飽きたよ」
「それじゃまたビールじゃないエビスでも飲むさ」
「ふふん。この調子じゃ、とても宿に着けなさそうだ」
「大丈夫だよ」
「だって、もう暗くなってきたよ」
「どれ」
「4時5分前だ。暗いのは天気が悪いせいだ。でもこう方角が変わってくると少し困るな。山に登ってから、もう2、3里は歩いただろう」
「豆を見る限りでは、10里くらい歩いたよ」
「ハハハハ。あの煙りが前に見えたんだが、もうずっと、後ろになっちゃった。すると僕たちは熊本の方へ2、3里近づいたってことかい」
「つまり山からそれだけ遠ざかったってわけさ」
「そう言えばそうだ。――君、あの煙りの横の方からまた新しい煙が見えてきたよ。あれが多分、新しい噴火口だろう。あのモクモクと出てるところを見ると、つい、そこにあるようだがな。どうして行けないんだろう。どうもこの山の裏手に違いないんだが、道がないから困る」
「道があったってだめだよ」
「どうも雲だか、煙りだか非常に濃くなってきて、頭の上までやってくる。すごいものだ。ねえ、君」
「うん」
「どうだい、こんな凄い景色はとても、こんな時じゃなきゃ見られないぜ。うん、非常に黒いものが降ってくる。君頭が大変だ。僕の帽子を貸そう。――こう被ってね。それから手ぬぐいがあるだろう。飛ぶといけないから、上から結わいつけるんだ。――僕が結んでやろう。――傘は、畳むといい。どうせ風に逆らえないだけだ。そうして杖につくさ。杖があれば、少しは歩けるだろう」
「少しは歩きやすくなった。――雨も風もだんだん強くなるみたいだね」
「そうさ、さっきは少し晴れそうだったんだけどな。雨や風は大丈夫だけど、足は痛むかね」
「痛いよ。登るときは豆が3つばかりだったが、一面になっちゃったんだ」
「晩にね、僕が、たばこの吸い殻をお米で練って、湿布を作ってあげよう」
「宿に着けば、どうにでもなるんだが……」
「歩いているうちが大変なんだ」
「うん」
「困ったな。――どこか高いところへ登ると、人の通る道が見えるんだがな。――うん、あそこに高い山が見えるだろう」
「あの右の方かい」
「ああ。あの上へ登ったら、噴火口が一目が見えるはずだ。そうしたら、道が分かるよ」
「分かるって、あそこへ行くまでに日が暮れちゃうよ」
「ちょっと待って時計を見てみるから。4時8分だ。まだ暮れやしない。君ここに待っていたまえ。僕がちょっと様子を見てくるから」
「待ってるけど、帰りに道が分からなくなると、それこそ大変だぜ。2人バラバラになっちゃうよ」
「大丈夫だ。どうしたって死ぬことはないよ。もしものことがあったら大きな声で呼ぶよ」
「うん。呼んでくれたまえ」

原文 (会話文抽出)

「どうも路が違うようだね」
「うん」
「何だか、情ない顔をしているね。苦しいかい」
「実際情けないんだ」
「どこか痛むかい」
「豆が一面に出来て、たまらない」
「困ったな。よっぽど痛いかい。僕の肩へつらまったら、どうだね。少しは歩行き好いかも知れない」
「うん」
「宿へついたら、僕が面白い話をするよ」
「全体いつ宿へつくんだい」
「五時には湯元へ着く予定なんだが、どうも、あの煙りは妙だよ。右へ行っても、左りへ行っても、鼻の先にあるばかりで、遠くもならなければ、近くもならない」
「上りたてから鼻の先にあるぜ」
「そうさな。もう少しこの路を行って見ようじゃないか」
「うん」
「それとも、少し休むか」
「うん」
「どうも、急に元気がなくなったね」
「全く饂飩の御蔭だよ」
「ハハハハ。その代り宿へ着くと僕が話しの御馳走をするよ」
「話しも聞きたくなくなった」
「それじゃまたビールでない恵比寿でも飲むさ」
「ふふん。この様子じゃ、とても宿へ着けそうもないぜ」
「なに、大丈夫だよ」
「だって、もう暗くなって来たぜ」
「どれ」
「四時五分前だ。暗いのは天気のせいだ。しかしこう方角が変って来ると少し困るな。山へ登ってから、もう二三里はあるいたね」
「豆の様子じゃ、十里くらいあるいてるよ」
「ハハハハ。あの煙りが前に見えたんだが、もうずっと、後ろになってしまった。すると我々は熊本の方へ二三里近付いた訳かね」
「つまり山からそれだけ遠ざかった訳さ」
「そう云えばそうさ。――君、あの煙りの横の方からまた新しい煙が見えだしたぜ。あれが多分、新しい噴火口なんだろう。あのむくむく出るところを見ると、つい、そこにあるようだがな。どうして行かれないだろう。何でもこの山のつい裏に違いないんだが、路がないから困る」
「路があったって駄目だよ」
「どうも雲だか、煙りだか非常に濃く、頭の上へやってくる。壮んなものだ。ねえ、君」
「うん」
「どうだい、こんな凄い景色はとても、こう云う時でなけりゃ見られないぜ。うん、非常に黒いものが降って来る。君あたまが大変だ。僕の帽子を貸してやろう。――こう被ってね。それから手拭があるだろう。飛ぶといけないから、上から結わいつけるんだ。――僕がしばってやろう。――傘は、畳むがいい。どうせ風に逆らうぎりだ。そうして杖につくさ。杖が出来ると、少しは歩行けるだろう」
「少しは歩行きよくなった。――雨も風もだんだん強くなるようだね」
「そうさ、さっきは少し晴れそうだったがな。雨や風は大丈夫だが、足は痛むかね」
「痛いさ。登るときは豆が三つばかりだったが、一面になったんだもの」
「晩にね、僕が、煙草の吸殻を飯粒で練って、膏薬を製ってやろう」
「宿へつけば、どうでもなるんだが……」
「あるいてるうちが難義か」
「うん」
「困ったな。――どこか高い所へ登ると、人の通る路が見えるんだがな。――うん、あすこに高い草山が見えるだろう」
「あの右の方かい」
「ああ。あの上へ登ったら、噴火孔が一と眼に見えるに違ない。そうしたら、路が分るよ」
「分るって、あすこへ行くまでに日が暮れてしまうよ」
「待ちたまえちょっと時計を見るから。四時八分だ。まだ暮れやしない。君ここに待っていたまえ。僕がちょっと物見をしてくるから」
「待ってるが、帰りに路が分らなくなると、それこそ大変だぜ。二人離れ離れになっちまうよ」
「大丈夫だ。どうしたって死ぬ気遣はないんだ。どうかしたら大きな声を出して呼ぶよ」
「うん。呼んでくれたまえ」


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