夏目漱石 『二百十日』 「御覧なさりまっせ」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 夏目漱石 『二百十日』

現代語化

「ご覧ください」
「なるほど、ずっと降りてるんだ。昨日は、こんなじゃなかったね」
「そうです。少しお山が荒れております」
「おい君、いくら荒れても登る気かい。荒れ模様なら少し延期しようじゃないか」
「荒れればなお楽しいよ。滅多に荒れたところなんて見られないものじゃない。荒れる時と、荒れない時では火の出具合がだいぶ違うんだそうだよ。ねえ、お姉さん」
「そうですよ。今夜はとても赤く見えます。ちょっと外に出てご覧ください」
「いやあ、これはすごい。おい君早く出て見たまえ。大変だよ」
「大変だ? 大変じゃ出て見るかな。どれ。――いやあ、これは――なるほどすごいものだね――あれじゃとてもだめだ」
「何が」
「何がって、――登る途中で焼き殺されちまうだろう」
「バカを言うなよ。夜だから、そう見えるんだ。実際昼間から、あのくらいやってるんだよ。ねえ、お姉さん」
「そうですよ」
「そうかもしれないけど危険だぜ。ここにこうしていても何だか顔が熱いようだ」
「大げさなことを言う奴だ」
「だって君の顔だって、赤く見えるぜ。そらそこの塀の外に広い田んぼがあるだろう。あの青い葉が一面に、こう照らされてるじゃないか」
「嘘ばかり、あれは星の光で照らされてるんだよ」
「星の光と火の光とは趣が違うさ」
「どうも、君もよほど無学だね。君、荒木又右衛門は知らなくってもいいが、このくらいなことがわからなくちゃ恥ずかしいよ」
「人格にかかわるかい。人格にかかわるのは我慢するが、命にかかわっちゃ降参だ」
「まだそんなことを言ってる。――じゃあお姉さんに聞いてみるといい。ねえお姉さん。あのくらい火が出たって、お山には登れるでしょうか」
「いいえ」
「大丈夫かい」
「いいえ。女でも登ります」
「女でも登っちゃ、男はぜひ登る訳かい。とんでもないことになったもんだ」
「とにかく、明日は6時に起きて……」
「もう分かったよ」

原文 (会話文抽出)

「御覧なさりまっせ」
「なるほど、始終降ってるんだ。きのうは、こんなじゃなかったね」
「ねえ。少し御山が荒れておりますたい」
「おい君、いくら荒れても登る気かね。荒れ模様なら少々延ばそうじゃないか」
「荒れればなお愉快だ。滅多に荒れたところなんぞが見られるものじゃない。荒れる時と、荒れない時は火の出具合が大変違うんだそうだ。ねえ、姉さん」
「ねえ、今夜は大変赤く見えます。ちょと出て御覧なさいまっせ」
「いやあ、こいつは熾だ。おい君早く出て見たまえ。大変だよ」
「大変だ? 大変じゃ出て見るかな。どれ。――いやあ、こいつは――なるほどえらいものだね――あれじゃとうてい駄目だ」
「何が」
「何がって、――登る途中で焼き殺されちまうだろう」
「馬鹿を云っていらあ。夜だから、ああ見えるんだ。実際昼間から、あのくらいやってるんだよ。ねえ、姉さん」
「ねえ」
「ねえかも知れないが危険だぜ。ここにこうしていても何だか顔が熱いようだ」
「大袈裟な事ばかり云う男だ」
「だって君の顔だって、赤く見えるぜ。そらそこの垣の外に広い稲田があるだろう。あの青い葉が一面に、こう照らされているじゃないか」
「嘘ばかり、あれは星のひかりで見えるのだ」
「星のひかりと火のひかりとは趣が違うさ」
「どうも、君もよほど無学だね。君、あの火は五六里先きにあるのだぜ」
「何里先きだって、向うの方の空が一面に真赤になってるじゃないか」
「よるだもの」
「夜だって……」
「君は無学だよ。荒木又右衛門は知らなくっても好いが、このくらいな事が分らなくっちゃ恥だぜ」
「人格にかかわるかね。人格にかかわるのは我慢するが、命にかかわっちゃ降参だ」
「まだあんな事を云っている。――じゃ姉さんに聞いて見るがいい。ねえ姉さん。あのくらい火が出たって、御山へは登れるんだろう」
「ねえい」
「大丈夫かい」
「ねえい。女でも登りますたい」
「女でも登っちゃ、男は是非登る訳かな。飛んだ事になったもんだ」
「ともかくも、あしたは六時に起きて……」
「もう分ったよ」


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