芥川龍之介 『河童』 「あの戦争の起こる前にはもちろん両国とも油…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『河童』

現代語化

「あの戦争が始まる前は、もちろん両国とも警戒しまくって相手を監視してたんすよ。だってどっちもどっちで相手が怖くて怖くて。そしたら、この国にいたカワウソが1匹、河童の夫婦の家に行ったんです。そのまた雌の河童ってのは、旦那殺そうとしてたんですよ。だって旦那が遊び人だったから。それに生命保険入ってたのも、多少なりとも誘惑になったのかも」
「あなたはその夫婦って知ってたんですか?」
「ああ...。いや、旦那の方だけ知ってます。俺のかみさんなんて、その河童のこと悪人のように言ってますけど。でも俺から言わせりゃ、悪人よりかは雌の河童に捕まるのをビビりまくったただの被害妄想狂っすよ...。それでこの雌の河童は、旦那のココアに青酸化カリを入れたんです。それをまたどう間違えたか、来たカワウソに飲ませちゃったんです。カワウソは当然死んじまいました。で...」
「そっから戦争になったんですか?」
「ああ、あいにくそのカワウソって勲章持ってたもんで」
「戦争はどっちが勝ったんですか?」
「もちろんこの国の勝ちっすよ。36万9千500匹の河童たちが、そのせいで勇敢にも戦死しました。でも敵国に比べりゃ、そのくらいの損害なんて屁でもないっすよ。この国にある毛皮ってのは、たいていカワウソの毛皮っす。俺もあの戦争の時はガラスを作る他にも石炭殻を戦地に送りましたよ」
「石炭殻ってなんにするんですか?」
「食糧に決まってるっしょ。河童は腹減ったら何でも食うって、決まってるじゃないですか」
「それは...。怒らないでください。それは戦地にいる河童たちには...。俺たちの国じゃ恥ですけど」
「この国でも恥には違いねえです。でも俺自身がこう言ってるんだから、誰も恥にはしねえんですよ。哲学者マッグも言ってるでしょう。『自分の悪は自分で言え。悪はおのずから消える』。...しかも俺は利益以外にも愛国心に燃えてたわけですし」

原文 (会話文抽出)

「あの戦争の起こる前にはもちろん両国とも油断せずにじっと相手をうかがっていました。というのはどちらも同じように相手を恐怖していたからです。そこへこの国にいた獺が一匹、ある河童の夫婦を訪問しました。そのまた雌の河童というのは亭主を殺すつもりでいたのです。なにしろ亭主は道楽者でしたからね。おまけに生命保険のついていたことも多少の誘惑になったかもしれません。」
「あなたはその夫婦を御存じですか?」
「ええ、――いや、雄の河童だけは知っています。わたしの妻などはこの河童を悪人のように言っていますがね。しかしわたしに言わせれば、悪人よりもむしろ雌の河童につかまることを恐れている被害妄想の多い狂人です。……そこでこの雌の河童は亭主のココアの茶碗の中へ青化加里を入れておいたのです。それをまたどう間違えたか、客の獺に飲ませてしまったのです。獺はもちろん死んでしまいました。それから……」
「それから戦争になったのですか?」
「ええ、あいにくその獺は勲章を持っていたものですからね。」
「戦争はどちらの勝ちになったのですか?」
「もちろんこの国の勝ちになったのです。三十六万九千五百匹の河童たちはそのために健気にも戦死しました。しかし敵国に比べれば、そのくらいの損害はなんともありません。この国にある毛皮という毛皮はたいてい獺の毛皮です。わたしもあの戦争の時には硝子を製造するほかにも石炭殻を戦地へ送りました。」
「石炭殻を何にするのですか?」
「もちろん食糧にするのです。我々は、河童は腹さえ減れば、なんでも食うのにきまっていますからね。」
「それは――どうか怒らずにください。それは戦地にいる河童たちには……我々の国では醜聞ですがね。」
「この国でも醜聞には違いありません。しかしわたし自身こう言っていれば、だれも醜聞にはしないものです。哲学者のマッグも言っているでしょう。『汝の悪は汝自ら言え。悪はおのずから消滅すべし。』……しかもわたしは利益のほかにも愛国心に燃え立っていたのですからね。」


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