森林太郎 『高瀬舟』 「喜助さん」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 森林太郎 『高瀬舟』

現代語化

「喜助さん」
「はい」
「いろいろ聞くなぁ、お前が今度島に送られるのは、人を殺したからだっていう話だけど。俺に詳しくその理由を話してみないか?」
「かしこまりました」
「なんてことをしたもんだ。恐ろしくて話もできないよ。後から考えると、どうしてあんなことができたのか、自分でも不思議です。夢中でやったんです。僕は小さいときに両親が疫病で死んで、弟と2人で残されました。最初は下宿に住んでる人の家の犬の子に餌を与えるみたいに町の人たちが恵んでくれるので、近所中を走り回って用事をしたりして、飢えたり凍えたりせずに育ちました。だんだん大きくなって職を探すにしても、できるだけ2人は離れないようにして、一緒にいて助け合って働きました。去年の秋のことでした。僕は弟と一緒に西陣の織物工場に入って、糸を引く仕事をしました。そのうち弟が病気になって働けなくなったんです。その頃僕たちは北山の掘っ立て小屋みたいなところに住んで、紙屋川の橋を渡って工場に通っていました。僕が暗くなってから食べ物などを買って帰ると、弟が待ち構えていて、僕を一人稼がせるのは悪いって言ってました。ある日いつものように何も考えずに帰ってみると、弟は布団の上にうつ伏せになっていて、周りは血だらけだったんです。僕はびっくりして、手に持ってた竹の包みやなんかをそこらへんに投げ出して、そばに行って「どうした?」

原文 (会話文抽出)

「喜助さん」
「さん」
「はい」
「さん」
「色々の事を聞くやうだが、お前が今度嶋へ遣られるのは、人をあやめたからだと云ふ事だ。己に序にそのわけを話して聞かせてくれぬか。」
「かしこまりました」
「どうも飛んだ心得違で、恐ろしい事をいたしまして、なんとも申し上げやうがございませぬ。跡で思つて見ますと、どうしてあんな事が出來たかと、自分ながら不思議でなりませぬ。全く夢中でいたしたのでございます。わたくしは小さい時に二親が時疫で亡くなりまして、弟と二人跡に殘りました。初は丁度軒下に生れた狗の子にふびんを掛けるやうに町内の人達がお惠下さいますので、近所中の走使などをいたして、飢ゑ凍えもせずに育ちました。次第に大きくなりまして職を搜しますにも、なるたけ二人が離れないやうにいたして、一しよにゐて、助け合つて働きました。去年の秋の事でございます。わたくしは弟と一しよに、西陣の織場に這入りまして、空引と云ふことをいたすことになりました。そのうち弟が病氣で働けなくなつたのでございます。其頃わたくし共は北山の掘立小屋同樣の所に寢起をいたして、紙屋川の橋を渡つて織場へ通つてをりましたが、わたくしが暮れてから、食物などを買つて歸ると、弟は待ち受けてゐて、わたくしを一人で稼がせては濟まない/\と申してをりました。或る日いつものやうに何心なく歸つて見ますと、弟は布團の上に突つ伏してゐまして、周圍は血だらけなのでございます。わたくしはびつくりいたして、手に持つてゐた竹の皮包や何かを、そこへおつぽり出して、傍へ往つて「どうした/\」


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