芥川龍之介 『神神の微笑』 「まあ、御待ちなさい。御前さんはそう云われ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 芥川龍之介 『神神の微笑』

現代語化

「ま、ちょっと待ってくれよ。そっちがそう言うけど...」
「今日は侍が2、3人いっぺんにこっちの教えに入ったんだぜ」
「そら誰でも入るだろ。ただ入っただけなら、この国の土人はほとんどブッダの教えに入ってる。でも俺たちの力ってのは、壊す力じゃねえんだ。変える力なんだよ」
「なるほど変える力か?でもそれはお前らだけじゃねえだろ。どこの国でも... たとえばギリシャの神とか、あっちの悪魔とかも...」
「大いなるパンは死んだ。いや、パンもいつかまた生き返るかもしれねえ。でも俺たちは今みたいに、まだ生きてるんだ」
「お前はパンって知ってんのか?」
「なんだ、西洋から持って帰ってきた横文字の本に載ってたんだろ...。ま、それはそうと、変える力が俺らだけじゃなくても、油断すんじゃねえよ。いや、それだけに気をつけろって言ってんだ。俺たちは古い神なんだからよ。あっちのギリシャの神々みてえに、世界の夜明けを見た神なんだからよ」
「でもイエズスは勝つはずだろ?」
「俺はつい4、5日前、西国の海辺に上がった、ギリシャの船乗りと会ったんだ。あいつは神じゃねえ。ただの人間だ。あいつと月夜の岩の上に座って、いろいろ話をしたんだ。片目の神につかまった話とか、人をブタに変える女神の話とか、歌声の素敵な人魚の話とか... あいつの名前知ってるか?あいつは俺と会った時から、この国の土人に変わったんだって。今では“ユリワカ”って名乗ってるらしい。だからお前も気をつけろよ。イエズスも必ず勝つとは限らねえ。キリスト教がいくら広まっても、必ず勝つとは限らねえ」
「もしかしたらイエズス自身も、この国の土人に変わるかもしれねえよな。中国もインドも変わったんだ。西洋も変わらなきゃならねえ。俺たちは木の中にもいるし、浅い川の流れにもいる。バラの花を渡る風にもいるし、寺の壁に残る夕陽にもいる。どこにでも、いつでもいるんだ。気をつけろ。気をつけろ...」

原文 (会話文抽出)

「まあ、御待ちなさい。御前さんはそう云われるが、――」
「今日などは侍が二三人、一度に御教に帰依しましたよ。」
「それは何人でも帰依するでしょう。ただ帰依したと云う事だけならば、この国の土人は大部分悉達多の教えに帰依しています。しかし我々の力と云うのは、破壊する力ではありません。造り変える力なのです。」
「なるほど造り変える力ですか? しかしそれはお前さんたちに、限った事ではないでしょう。どこの国でも、――たとえば希臘の神々と云われた、あの国にいる悪魔でも、――」
「大いなるパンは死にました。いや、パンもいつかはまたよみ返るかも知れません。しかし我々はこの通り、未だに生きているのです。」
「お前さんはパンを知っているのですか?」
「何、西国の大名の子たちが、西洋から持って帰ったと云う、横文字の本にあったのです。――それも今の話ですが、たといこの造り変える力が、我々だけに限らないでも、やはり油断はなりませんよ。いや、むしろ、それだけに、御気をつけなさいと云いたいのです。我々は古い神ですからね。あの希臘の神々のように、世界の夜明けを見た神ですからね。」
「しかし泥烏須は勝つ筈です。」
「私はつい四五日前、西国の海辺に上陸した、希臘の船乗りに遇いました。その男は神ではありません。ただの人間に過ぎないのです。私はその船乗と、月夜の岩の上に坐りながら、いろいろの話を聞いて来ました。目一つの神につかまった話だの、人を豕にする女神の話だの、声の美しい人魚の話だの、――あなたはその男の名を知っていますか? その男は私に遇った時から、この国の土人に変りました。今では百合若と名乗っているそうです。ですからあなたも御気をつけなさい。泥烏須も必ず勝つとは云われません。天主教はいくら弘まっても、必ず勝つとは云われません。」
「事によると泥烏須自身も、この国の土人に変るでしょう。支那や印度も変ったのです。西洋も変らなければなりません。我々は木々の中にもいます。浅い水の流れにもいます。薔薇の花を渡る風にもいます。寺の壁に残る夕明りにもいます。どこにでも、またいつでもいます。御気をつけなさい。御気をつけなさい。………」


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