GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『右門捕物帖』
現代語化
「なるほど、いい手がかりだな。そのとき鉄山はどうした?」
「すぐに飛び出しそうだったんで、きつく止めましたよ。まだ12かそこらで力が弱い子供なんで、もし返り討ちにでもなったら大変だと思って、もう少し大人になったら討つように言い聞かせてたんですけど、やっぱ子供なんで言うこと聞かなかったみたいっす。怪我して帰ってきた日、恥ずかしいんですけど、この女のとこに使いに出したら、帰り道にまたくまを連れた仇を見かけて、俺の言うことなんか忘れて、いきなり名乗りを上げちゃったから、ああいう目に遭ったんじゃないかって」
「確かに。それなら、鉄山の『くまにやられた』って言葉とも辻褄が合うな。でも、なんでそんなに犯人の顔とかわかるのに、黙山には内緒にしてたの?」
「そんなこと聞く人じゃないですよね。黙山にばらしちゃまた子供心に仇を追いかけて、また返り討ちになったら、誰がきょうだいのかたきを討つんです?まるで根絶やしじゃないですか」
「確かに。浮気しまくってるだけあって、なかなかの物言いだな」
「じゃあ、さっき見逃してくれるって話ですけど、二度と女と寝ませんよ」
「はいはい、もう今夜みたいに命の危機を感じたことはないので、今後一切そういうことはしません」
「でも、蛤鍋でニヤニヤしながら食べてたあたり、そんなに命縮んでないんじゃないの?」
「それが縮んだ証拠ですよ。俺は大好物なんですけど、番所からさっきみたいに呼ばれたら、自分の罰もすぐだろうと思って、最後の思い出に腹いっぱい食べようと思って、ヤケクソでやってたんですよ」
「ゲスだな。女のとこに逃げ込んで、最後の思い出に蛤鍋をたらふく食ってるとは何事だ。――でも、見た感じ以外とバカじゃなさそうだから、今回は兄弟を育てた情けに免じて見逃してやるよ」
「え、本当ですか!」
「でも、そのまんまだと許さないぞ。そもそもお前があの日、鉄山をわざわざ女のとこに使いに出したから、あの少年の大事な命が無駄になったんだ。だから、明日から手を貸して、この黙山の仇討ちを手伝えろ」
「はい、見逃してもらえるなら、なんでもしますよ」
「もちろん、鉄山から聞いた犯人の顔は覚えてるよな?」
「はい、ばっちりです。それに、あの犯人の顔ほど覚えやすい奴はいませんよ。なぜか右耳が片方ない浪人だって言ってましたから」
「そうか、それは助かる。じゃあ、黙山坊と一緒に、明日朝早く八丁堀まで来てくれ」
「はい、わかりました。でも、八丁堀では誰に会えばいいんすか?」
「名前を言って、もう一度びっくりさせてやりたいけど、お前らみたいなヤツに名乗るのはもったいないな。黙山坊が屋敷は知ってるはずだから、黙山坊に気をつけてついていけばいい」
原文 (会話文抽出)
「生きた二匹のくまを大きな檻に入れて、そのそばに南部名物くまの手踊りと書いた立て札がしてあったと申しましたから、思うにくまを使って興行をして歩く遊芸人の群れだろうと存じますがな」
「なるほどな、またとない手がかりじゃ。して、そのとき鉄山はいかがいたした」
「だから、すぐにも飛び出しそうにしたゆえ、てまえがきつくしかっておいたのでござりまするよ。なにをいうにもまだ十二やそこらの非力な子どもでござりますからな、もし早まって返り討ちにでもなったらたいへんだと存じましたので、もう少し成人してから討つように堅くいいきかせておいたのでござりまするが、やっぱり子どもにはきき分けがなかったのでござりましょう。ちょうどあのけがをして帰った日のことでござります、お恥ずかしいことですが、これなる女のもとへ使いによこしましたところ、その帰り道かなんかで、またまたくまを連れたかたきを見かけ、てまえの堅くいいおいたことばも忘れて、むてっぽうに名のりをあげたために、ついついあのような返り討ちに会うたのではないかと存じます」
「いかにもな。それならば、くまにやられたと申した鉄山のことばとも符節が合うているが、しかし、なぜそれほども詳しい下手人の面書きがついているのに、これなる黙山へは厳秘にしておいたのじゃ」
「だんなにも似合わないお尋ねでござりまするな。もしも黙山に詳しいことを知らして、またまたこれが子ども心にかたきを追いかけ、このうえつづいてむごたらしく返り討ちになるようなことがござりましたら、いったいあとはだれがきょうだいたちのかたきを討つのでござります? まるで、血を引いたものは根絶やしになるではござりませぬか」
「いかさまな。女道楽なぞするだけあって、なかなか才はじけたことを申すわ」
「では、さきほどの見のがしてくれという問題じゃが、けっして二度とは女犯の罪を犯すまいな」
「へえい、もう今夜ぐらい命の縮まった思いをしたことはござりませぬから、今後いっさいこのようなバカなまねはいたしませぬ」
「でも、蛤鍋かなんかでやにさがっていたあたりは、あんまり命が縮まったとも思えないではないか」
「それが縮まったなによりの証拠でござります。いたっててまえはこれが好物でござりますので、もうお番所からさきほどのようにお使いがあった以上は、いずれてまえのお手当もそう遠くないと存じ、今生の思い出に腹いっぱい用いておこうと思いまして、やぶれかぶれにやっていたのでござります」
「猥褻至極なやつじゃ。女のもとへ逃げ走って、今生の思い出に蛤鍋なぞをたらふく用いるとはなにごとじゃ。――だか、うち見たところ存外のおろか者でもなさそうじゃから、今回だけは兄弟ふたりを拾い育てたという特志に免じ、見のがしておいてつかわそうよ」
「えッ、すりゃ、あの、ほんとうでござりまするか!」
「しかし、このままでは許さぬぞ。もとはといえば、そのほうがあの日鉄山を、所もあろうにかくし女のもとへなぞ使いによこしたから、あたら少年の前途ある命もそまつにせねばならぬようになったのじゃ。だから、あすより手先となって、これなる黙山のかたき討ちに助力をいたせ」
「へえ、もうお目こぼしさえ願えますれば、どのようなことでもいたしますでござります」
「むろん、鉄山からきいて、かたきの人相はどんなやつじゃか、そのほうはよく存じているであろうな」
「へえい、もう大知りでござんす。またこのかたきの人相くらい覚えやすいやつはございませんよ。どうしたことか、右の耳が片一方なくなっている浪人上がりだとか申しましたからな」
「さようか、なによりじゃ。では、黙山坊を同道いたして、明日早く八丁堀へたずねてまいれよ」
「へえい、承知いたしました。だが、八丁堀はどなたと申しておたずねすればよろしゅうござりまするか」
「名まえを告げて、もう一度びっくりさせてやりたいが、そのほうごとき生臭に名のるのはもったいないわ。黙山坊が屋敷はよく存じているはずじゃから、くれぐれもいたわって、いっしょに参れ」