GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『右門捕物帖』
現代語化
「いえ、そのことならばよく存じております。つい10日ほど前の晩方でございますが、お師匠様のお使いで浅草へ参りましたのに、どうしたことやらお帰りが遅うございましたので、私があそこの門前へ出てお待ちしておりましたら、衣まで真っ赤になさって、よろよろしながら帰ってまいりますると、いきなり私の足元にバッタリ倒れたのでございます」
「ほう。では、そのときお兄様はどこぞ切られておいでなすったのじゃな」
「はい、肩のところを大きくグサリと切られてでございました」
「肩をのう。それで、そなたはどういたしました」
「だから、一生懸命傷口のところを押さえて、お兄様お兄様と呼びましたら、熊にやられた、熊にやられた、とこのように、たった2つ言葉おっしゃっただけで、それっきりもう極楽へ逝ってしまわれました」
「なに、たった2つ言葉? では、どこでその熊に会うたかも言わずにいなくなってしまわれたというのでありますな」
「はい、よっぽど無念そうだったと見えて、息が絶えてしまうときにも、お兄様はお目にいっぱい涙をためてでございました」
「おかわいそうにのう、そなたもさぞお力落としでありましたろう。――では、それゆえ人間の熊じゃやら、獣の熊じゃやらわからぬけれど、お兄様のかたきを討つために、ああして毎日、釣鐘と剣術のお稽古をなさっておられるのじゃな」
「はい。如来様の教えのうちには殺生戒とやら申すことがあるんじゃそうにございますけれど、私と2人で金団子を内緒にいただいたほかには、何一つ悪いことをせぬあんなおやさしいお兄様ですから、くやしくってなりません」
原文 (会話文抽出)
「では、お兄いさまが、どこで、どのようにご最期をとげたかもわかりませんのじゃな」
「いいえ、そのことならばよう存じてござります。つい十日ほどまえの晩がたでござりましたが、お師匠さまのお使いで浅草へ参りましたのに、どうしたことやらお帰りがおそうござりましたので、わたしがあそこの門前へ出てお待ちしておりましたら、衣までまっかになさって、よろよろしながら帰ってまいりますると、いきなりわたくしの足もとへばったり倒れたのでござります」
「ほう。では、そのときお兄いさまはどこぞ切られておいでなすったのじゃな」
「はい、肩のところを大きくぐさりと切られてでござりました」
「肩をのう。それで、そなたはどういたしました」
「だから、いっしょうけんめい傷口のところを押えて、お兄いさまお兄いさまと呼んでさしあげましたら、くまにやられた、くまにやられた、とこのように、たったふたことおっしゃっただけで、それっきりもう極楽へいんでしまわれました」
「なに、たったふたこと? では、どこでそのくまに会うたかもいわずにいんでしまわれたというのでありますな」
「はい、よっぽどおくやしそうだったとみえて、息が絶えてしまうときにも、お兄いさまはお目々にいっぱい涙をためてでござりました」
「おかわいそうにのう、そなたもさぞお力おとしでありましたろう。――では、それゆえ人間のくまじゃやら、けだもののくまじゃやらわからぬけれど、お兄いさまのかたきを討つために、ああして毎日、つり鐘と剣術のおけいこをしていなさるのじゃな」
「はい。如来さまの教えのうちには殺生戒とやら申すことがあるんじゃそうにござりますけれど、わたくしとふたりできんとんをないしょにいただいたほかには、なに一つわるいことをせぬあんなおやさしいお兄いさまですもの、くやしゅうてなりませぬ」