谷崎潤一郎 『痴人の愛』 「どうしたんだい、朝ッぱらから湯になんぞ這…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 谷崎潤一郎 『痴人の愛』

現代語化

「どうしたの?朝からお風呂に入っちゃって」
「どうしたって私の勝手でしょ。…ああ、気持ちよかった」
「ちょっと!見てよ、ヒゲ生えてる?」
「ああ、生えてるよ」
「ついでに、床屋に寄って顔を剃ってくればよかったかなあ」
「だって、お化粧落としが嫌いだったじゃない。西洋の女性は絶対に剃らないって言ってたのに。…」
「でも、最近はアメリカなんかでは顔を剃るのが流行ってるのよ。ねぇ、私の眉毛を見てよ。アメリカの女性はみんな、こうやって眉毛を剃いてるから」
「ははあ、そうか。お前の顔が最近変わったと思ったら、眉の形が違うせいか」
「うん、そうよ。今頃になって気づくなんて、時代遅れね」
「譲治さん、もうヒステリーは本当に治ったの?」
「うん、治ったよ。どうしたの?」
「治ったら、お願いがあるんだけど。…これから床屋に行くのは面倒だから、私の顔を剃ってくれない?」
「そんなこと言って、またヒステリー起こさせようってつもりだろう」
「あら、そんなんじゃないわよ。本当に真面目に頼んでるんだから。そのくらいはしてくれてもいいでしょ?でも、ヒステリー起こされて怪我させられちゃ大変だけど」
「安全カミソリ貸すから、自分で剃ったらいいじゃないか」
「それがそうはいかないの。顔だけならいいけど、首の周りから、ずっと肩の後ろの方まで剃るんだから」
「へぇ、なんでそんなところまで剃るの?」
「だって、夜会服を着れば肩の方まで出ちゃうんでしょ。…ほら、ここらまで剃るのよ。だから自分じゃできないわ」

原文 (会話文抽出)

「どうしたんだい、朝ッぱらから湯になんぞ這入って」
「どうしたって大きなお世話よ。―――ああ、いい気持だった」
「ちょいと! よく見て頂戴、髭が生えてる?」
「ああ、生えてるよ」
「ついでにあたし、床屋へ寄って顔を剃って来ればよかったっけ」
「だってお前は剃るのが嫌いだったじゃないか。西洋の女は決して顔を剃らないと云って。―――」
「だけどこの頃は、亜米利加なんかじゃ顔を剃るのが流行っているのよ。ね、あたしの眉毛を御覧なさい、亜米利加の女はこんな工合にみんな眉毛を剃っているから」
「ははあ、そうか、お前の顔がこの間から面変りがして、眉の形まで違っちまったのは、そこをそんな風に剃っているせいか」
「ええ、そうよ、今頃になって気が付くなんて、時勢後れね」
「譲治さん、もうヒステリーはほんとうに直って?」
「うん、直ったよ。なぜ?」
「直ったら譲治さんにお願いがあるの。―――これから床屋へ出かけて行くのは大儀だから、あたしの顔を剃ってくれない?」
「そんな事を云って、又ヒステリーを起させようッて気なんだろう」
「あら、そうじゃないわよ、ほんとに真面目で頼むんだから、そのくらいな親切があってもいいでしょ? 尤もヒステリーを起されて、怪我でもさせられちゃ大変だけれど」
「安全剃刀を貸してやるから、自分で剃ったらいいじゃないか」
「ところがそうは行かないの。顔だけならいいけれど、頸の周りから、ずうッと肩のうしろの方まで剃るんだから」
「へえ、どうしてそんな所まで剃るんだ?」
「だってそうでしょ、夜会服を着れば肩の方まですっかり出るでしょ。―――」
「ほら、ここいらまで剃るのよ、だから自分じゃ出来やしないわ」


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