谷崎潤一郎 『痴人の愛』 「でも大丈夫よ、そんな悪い事はしやしないわ…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 谷崎潤一郎 『痴人の愛』

現代語化

「でも大丈夫よ。そんな悪いことはしないから。それより、私は昔のことを忘れて、これから先はただの友達として譲治さんと付き合いたいんです。ねぇ、いいでしょ?それなら全然問題ないでしょ?」
「それもなんか変だよ」
「何が変なの?昔夫婦だった者が友達になるのがなんでおかしいの?それこそ古い時代遅れの考え方じゃないの?…本当に私は、以前のことなんてこれっぽっちも考えてないのよ。もちろん、今だって譲治さんを誘惑しようと思えば、ここでサッサとそうしてしまうのは簡単だけど、私は誓ってそんなことは絶対しないわ。せっかく譲治さんが決心したのに、それを揺るがすのはさすがに気がひけるから。―――」
「じゃあ、気の毒だから同情して友達になれってわけ?」
「そんな意味じゃないよ。譲治さん自身だって同情されるようなことしないように、しっかりしていればいいんじゃないの?」
「それが怪しいんだよ。今はしっかりしてるつもりだけど、あなたと付き合うとだんだん揺らいでくるかもしれないよ」
「ばかみたい、譲治さんったら。…それじゃ友達になるのは嫌ですか?」
「ああ、まぁ嫌だね」
「嫌なら、誘惑するわよ。…譲治さんの決意を踏み躙って、めちゃくちゃにしてやるわよ」
「友達として清く付き合うのと、誘惑されてまたひどい目に遭うのと、どっちがいい?…私は今夜、譲治さんを脅迫してるのよ」

原文 (会話文抽出)

「でも大丈夫よ、そんな悪い事はしやしないわよ。それよりかもあたし、昔のことは忘れてしまって、これから後もただのお友達として、譲治さんと附き合いたいの。ねえ、いいでしょ? それならちっとも差支えないでしょ?」
「それも何だか、妙なもんだよ」
「何が妙なの? 昔夫婦でいた者が、友達になるのがなぜ可笑しいの? それこそ旧式な、時勢後れの考じゃなくって?―――ほんとうにあたし、以前のことなんかこれッぱかしも思っていないのよ。そりゃ今だって、若し譲治さんを誘惑する気なら、此処で直ぐにもそうしてしまうのは訳なしだけれど、あたし誓って、そんな事はきっとしないわ。折角譲治さんが決心したのに、それをグラツカせちゃ気の毒だから。………」
「じゃ、気の毒だと思って憐れんでやるから、友達になれと云う訳かね?」
「何もそう云う意味じゃないわ。譲治さんだって憐れまれたりしないように、シッカリしていればいいじゃないの」
「ところがそれが怪しいんだよ、今シッカリしている積りだが、お前と附き合うとだんだんグラツキ出すかも知れんよ」
「馬鹿ね、譲治さんは。―――それじゃ友達になるのはいや?」
「ああ、まあいやだね」
「いやならあたし、誘惑するわよ。―――譲治さんの決心を蹈み躪って、滅茶苦茶にしてやるわよ」
「友達として清く附き合うのと、誘惑されて又ヒドイ目に遭わされるのと、孰方がよくって?―――あたし今夜は譲治さんを脅迫するのよ」


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