谷崎潤一郎 『痴人の愛』 「此奴は己に気がある」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 谷崎潤一郎 『痴人の愛』

現代語化

「あいつ、オレに気あんのかな〜」
「ねえ、今夜ウチで泊まらない?」
「いいわよ、泊まっても」
「いきなり初めて会った男の家に泊まるなんて、ちょっと信じられないよ」
「でも河合さん、ナオミさんはそんなとこ気にしなさそう。マッカネルもちょっと不思議に思ってたみたいで、昨晩熊谷に『あの人ってどこ出身なの?』って聞いてたんですって」
「わけわかんない女を泊めてるとかマジかよ」
「泊めるどころか服とかアクセサリーとか着せたりして、完全に調子に乗ってるよ。しかも、たった一晩でめっちゃ仲良くになって、ナオミさん、『ウイリー、ウイリー』って呼んでたみたい」
「じゃあ、服とかアクセサリーもそいつに買わせたんでしょ?」
「中には買わせたのもあるみたいだけど、西洋人だし、友達の女の子の服とかを借りてきて、一時間弱くらいで仕上げたみたい。ナオミさんが『洋服着てみたい』って甘えてたら、男がご機嫌取りに使われたんじゃないかな。しかも、その服も既製品じゃないっぽくて、体にぴったりフィットしてた。靴もフレンチヒールってやつで、踵が高くてエナメル張り。つま先はたぶんダイヤか何か、小さな宝石がキラッキラ。まるで昨晩のナオミさんってば、おとぎ話のシンデレラみたいだったよ」

原文 (会話文抽出)

「此奴は己に気がある」
「あなた今晩私の家へ泊りませんか」
「ええ、泊っても構わないわ」
「何ぼ何でも、そいつは少し信じかねるな、始めての男の所へ行って、その晩すぐに泊るなんて。―――」
「だけど河合さん、ナオミさんはそう云うことは平気でやると思いますね、マッカネルもいくらか不思議に感じたと見えて、『このお嬢さんは一体何処の人ですか』ッて、昨夜熊谷に聞いたそうです」
「何処の人だか分らない女を、泊める方も泊める方だな」
「泊めるどころか洋服を着せてやったり、腕環や頸飾りを着けてやったりしているんだから、なお振ってるじゃありませんか。そうしてあなた、たった一と晩ですっかり馴れ馴れしくなっちまって、ナオミさんは其奴のことを『ウイリー、ウイリー』ッて呼ぶんだそうです」
「じゃ、洋服や頸飾りも、その男に買わせたんでしょうか?」
「買わせたのもあるらしいし、西洋人のことだから、友達の女の衣裳か何かを借りて来て、そいつを一時間に合わせたのもあるらしいッて云うことですよ。ナオミさんが『あたし洋服が着てみたいわ』ッて、甘ッたれたのが始まりで、とうとう男が御機嫌を取ることになっちまったんじゃないでしょうか。その洋服も出来合いのようなものじゃなくって、体にぴったり篏まっていて、靴なんかもフレンチ・ヒールのきゅッと踵の高い奴で、総エナメルの爪先のところに、多分新ダイヤか何かでしょうが、細かい宝石が光ってるんです。まるで昨夜のナオミさんは、お伽噺のシンデレラと云う風でしたよ」


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