GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 谷崎潤一郎 『痴人の愛』
現代語化
「ああ、もし、もし、―――」
「ああ、―――」
「河合さんですか、―――」
「ああ、―――」
「どうしたんですか、―――」
「ああ、―――どうしたらいいのか分からないんです、―――」
「でも電話口で考えてたって、仕様がないじゃありませんか」
「仕様がないことは分かってますけど、―――でも浜田君、僕は本当に困ってるんですよ。どうしたものか途方に暮れてるんですよ。あの子がいなくなってから、夜もろくろく寝ないくらいに苦しんでるんです。―――」
「―――浜田君、僕はこの場合、君以外に頼りにする人がいないもんだから、とんでもない迷惑をかけるんですけど、僕は、僕は、―――どうにかナオミの居場所を知りたいんです。熊谷のところにいるのか、それとも誰か他の男のところにいるのか、それをはっきり突き止めたいんです。ついては誠に、勝手なお願いですけど、君の尽力でそれを調べていただくわけには行きませんか。―――僕は自分で調べるよりも、君が調べてくださった方がいろいろ手がかりがおありになるんじゃないかと、そう思うもんですから、―――」
「はい、それが、僕が調べればすぐに分かるかもしれませんけどね」
「でも河合さん、あなたの方にもだいたい何処ってことろ心当たりはないんですか？」
「僕はてっきり熊谷のところだと思ってたんです。実は君だからお話しますけど、ナオミはまだ僕に内緒で、熊谷と関係してたんです。それがこの間バレたもんだから、とうとう僕と喧嘩になって、家を飛び出しちまったんです。―――」
「ふうん、―――」
「ところが君の話だと、西洋人だのいろんな男が一緒だとか、ドレスなんか着てるって言うし、僕にはまったく見当がつかなくなっちゃったんです。でも熊谷に会っていただければだいたい様子は分かるだろうと思うんですけど、―――」
「ああ、結構です、結構です」
「それじゃとにかく調べてみますよ」
「それもどうか、なるべくとにかく至急にお願いしたいんですけれど、―――できれば今日のうちにでも結果を知らせてくださると、すごく助かるんですけれど、―――」
「ああ、そうですか。多分今日中には分かるでしょうが、分かったらどこへ連絡しましょう？あなたはこの頃も、やっぱり大井町の会社ですか？」
「いや、この事件が起きてから、会社はずっと休んでるんです。もしナオミが帰って来なかったらどうしようか、そんな気がするもんですから、なるたけ家を空けないようにしてるんです。それで何とも勝手な話ですけど、電話ではちょっと具合が悪いし、お目にかかっていただければ大変都合がいいんですけど、―――どうでしょうか？様子が分かったら大森の方へ来ていただくことはできませんでしょうか？」
「ええ、かまいません。どうせ遊んでるんですから」
「ああ、ありがとうございます。そうしていただければ本当に僕はありがたいんです！」
「じゃ、お越しになるのはだいたい何時頃になるでしょうか？遅くても2時か3時には分かりますでしょうか？」
「さあ、分かるだろうとは思いますが、しかしあの子はひとまず尋ねて見てからでないと、はっきりしたことは言えませんね。最善の手段を取ってはみますが、場合によっては2、3日かかるかもしれませんから、―――」
「そ、それは仕方がありません。明日になっても明後日になっても、僕は君が来てくださるまで、じっと家で待ってますよ」
「了解しました。詳しいことはいずれお目にかかってからお話しましょう。―――じゃ、さようなら。―――」
「あ、もし、もし」
「もし、もし、―――あのう、それから、―――これはその時の状況次第でどうでもいいんですが、君が直接ナオミにお会いになるようだったら、そして話す機会があったら、そう言っていただけませんか。―――僕は決して彼女の罪を責めようとはしません。彼女が堕落したことに関しては自分の方にも罪があることがよく分かってます。それで自分の悪かったことは何度でも謝りますし、どんな条件でも聞き入れますから、一切の過去は水に流して、ぜひもう一度帰ってきてくれるように。それも嫌なら、せめて一度僕に会ってくれるように。―――」
「彼女が土下座しろと言うなら、僕は喜んで土下座します。地面に額を擦りつけろと言うなら、地面に額を擦りつけます。どうにでもして謝ります」
「―――僕がそれほど彼女のことを思っていると、もしできれば伝えていただけませんか。―――」
「ああ、そうですか。機会があったらそれも十分そう言ってみますよ」
「それから、あのう、―――もしかしたらあの子は、帰りたいとは思っていても、意地を張ってるんじゃないかと思います。そんなようなら、僕がすごく落ち込んでるとそうおっしゃって、無理にでもあの子を連れてきてくださるとなおいいんですが、―――」
「分かりました、分かりました。そこまでは請け合いませんが、できるだけのことはやってみますよ」
原文 (会話文抽出)
「ああ、もし、もし、どうしたんですか、河合さん、………もし、………」
「ああ、もし、もし、………」
「ああ、………」
「河合さんですか、………」
「ああ、………」
「どうしたんですか、………」
「ああ、………どうしたらいいか分らないんです、………」
「しかし電話口で考えていたって、仕様がないじゃありませんか」
「仕様がないことは分ってるんだが、………しかし浜田君、僕は実に困ってるんですよ。どうしたものか途方に暮れているんですよ。彼奴がいなくなってから、夜もロクロク寝ないくらいに苦しんでいるんです。………」
「………浜田君、僕はこの場合、君より外に頼りにする人がないもんだから、飛んだ御迷惑をかけるんですけれど、僕は、僕は、………どうかしてナオミの居所を知りたいんです。熊谷の所にいるんだか、それとも誰か外の男の所にいるんだか、それをハッキリと突き止めたいんです。就いては誠に、勝手なお願いなんですが、君の御尽力でそれを調べて戴く訳には行かないでしょうか。………僕は自分で調べるよりも、君が調べて下さる方がいろいろ手蔓がおありになりはしないかと、そう思うもんですから、………」
「ええ、そりゃ、僕が調べれば直きに分るかも知れませんがね」
「ですが河合さん、あなたの方にも大凡そ何処と云う心当りはないんですか？」
「僕はテッキリ熊谷の所だと思っていたんです。実は君だからお話しますが、ナオミは未だに僕に内証で、熊谷と関係していたんです。それがこの間バレたもんだから、とうとう僕と喧嘩になって、家を飛び出しちまったんです。………」
「ふむ、………」
「ところが君の話だと、西洋人だのいろんな男が一緒だと云うし、洋服なんか着ていると云うんで、僕には全く見当が付かなくなっちゃったんです。でも熊谷に会って下されば大概の様子は分るだろうと思うんですが、………」
「ああ、よござんす、よござんす」
「それじゃとにかく調べて見ますよ」
「それもどうか、成るべく至急にお願いしたいんですけれど、………若し出来るなら今日のうちにでも結果を知らして下さると、非常に助かるんですけれど、………」
「ああ、そうですか、多分今日じゅうには分るでしょうが、分ったら何処へお知らせしましょう？ あなたはこの頃、やっぱり大井町の会社ですか？」
「いや、この事件が起ってから、会社はずッと休んでいるんです。万一ナオミが帰って来ないもんでもないと、そんな気がするもんですから、成るたけ家を空けないようにしているんです。それで何とも勝手な話ですけれど、電話ではちょっと工合が悪いし、お目に懸れれば大変好都合なんですが、………どうでしょうか？ 様子が知れたら大森の方へ来て戴くことは出来ないでしょうか？」
「ええ、構いません、どうせ遊んでいるんですから」
「ああ、有難う、そうして下さればほんとうに僕は有難いんです！」
「じゃ、おいでになるのは大概何時頃になるでしょうか？ おそくも二時か三時には分るでしょうか？」
「さあ、分るだろうとは思いますが、しかし此奴は一往尋ねて見てからでなけりゃあハッキリしたことは云えませんねえ。最善の方法を取っては見ますが、場合に依ったら二三日かかるかも知れませんから、………」
「そ、そりゃ仕方がありません、明日になっても明後日になっても、僕は君が来て下さるまで、じっと内で待っていますよ」
「承知しました、委しい事はいずれお目に懸ってからお話しましょう。―――じゃ左様なら。―――」
「あ、もし、もし」
「もし、もし、………あのう、それから、………これはその時の事情次第でどうでもいいことなんですが、君が直接ナオミにお会いになるようだったら、そして話をする機会があったら、そう云って戴きたいんですがね。―――僕は決して彼女の罪を責めようとはしない、彼女が堕落したに就いては自分の方にも罪のあることがよく分った。それで自分の悪かったことは幾重にも詫まるし、どんな条件でも聴き入れるから、一切の過去は水に流して、是非もう一度帰って来てくれるように。それも厭なら、せめて一遍だけ僕に会ってくれるように。―――」
「彼女が土下座しろと云うなら、僕は喜んで土下座します。大地に額を擦りつけろと云うなら、大地に額を擦りつけます。どうにでもして詫まります」
「―――僕がそれほど彼女のことを思っていると云うことを、若し出来るなら伝えて戴きたいんですがね。………」
「ああ、そうですか、機会があったらそれも十分そう云って見ますよ」
「それから、あのう、………或はああ云う気象ですから、帰りたいには帰りたくっても、意地を突ッ張っているのじゃないかと思うんです。そんな風なら、僕が非常にショゲているからとそう仰っしゃって、無理にも当人を連れて来て下さると尚いいんですが、………」
「分りました、分りました、どうもそこまでは請け合いかねますが、出来るだけの事はやってみますよ」