谷崎潤一郎 『痴人の愛』 「え? お前は己が嫌いなのかよ? そうなら…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 谷崎潤一郎 『痴人の愛』

現代語化

「え?お前は自分が嫌いなのかい?そうならそうと言ってくれ。―――」
「なんでそんなこと聞くの?―――」
「俺にはだいたい、お前の様子で分かるんだ。最近の俺たちは喧嘩こそしないけど、心の奥底ではお互い張り合ってる。これでも俺たち夫婦なのか?」

「あたしは張り合ってないわ。あなたこそ張り合ってるんじゃないの?」
「それはお互い様だと思う。お前の態度が俺に安心感を与えないから、俺の方もついつい疑いの目で―――」
「ふん」
「じゃあ聞くけど、あたしの態度に何か怪しいところがあるの?あるなら証拠を出してよ」
「証拠ってほどじゃないけど、―――」
「証拠がないのに疑うなんて、それはあなたが無理じゃないの。あなたが私を信用しないで、妻としての自由も権利も与えないでおきながら、夫婦らしくしようとしたってそりゃ駄目だわ。ねえ、譲治さん、あなたはあたしが何も知らないと思ってるの?人の手紙を内緒で読んだり、探偵みたいに跡をつけたり、―――あたしちゃんと知ってるのよ」
「それは俺も悪かったよ。でも俺も前のことがあるから、神経過敏になってるんだ。それを察してくれないじゃ困るよ」
「じゃ、一体どうすればいいのよ?以前のことはもう言わないって約束じゃないの」
「俺の神経が本当に落ち着くように、お前が心から打ち解けてくれて、俺を愛してくれたらいいんだ」
「でもそうするにはあなたの方で信じてくれなきゃあ、―――」
「ああ信じるよ。もうこれからきっと信じるよ」

原文 (会話文抽出)

「え? お前は己が嫌いなのかよ? そうならそうと云っておくれ。………」
「なぜそんなことを尋ねるの?………」
「己には大概、お前の素振りで分っているんだ。この頃の己たちは喧嘩こそしないが、心の底では互に鎬を削っている。これでも己たちは夫婦だろうか?」
「あたしは鎬を削ってやしない、あなたこそ削っているんじゃないの」
「それはお互様だと思う。お前の態度が己に安心を与えないから、己の方でもつい疑いの眼を以て………」
「ふん」
「じゃあ聞きますが、あたしの態度に何か怪しい所があるの? あるなら証拠を見せて頂戴」
「そりゃ、証拠と云ってはありゃしないが、………」
「証拠がないのに疑ぐるなんて、それはあなたが無理じゃないの。あなたがあたしを信用しないで、妻としての自由も権利も与えないで置きながら、夫婦らしくしようとしたってそりゃ駄目だわ。ねえ、譲治さん、あなたはあたしが何も知らずにいると思って? 人の手紙を内証で読んだり、探偵みたいに跡をつけたり、………あたしちゃんと知っているのよ」
「それは己も悪かったよ、けれども己も以前の事があるもんだから、神経過敏になっているんだ。それを察してくれないじゃ困るよ」
「じゃ、一体どうしたらいいのよ? 以前の事はもう云わないッて約束じゃないの」
「己の神経がほんとうに安まるように、お前が心から打ち解けてくれ、己を愛してくれたらいいんだ」
「でもそうするにはあなたの方で信じてくれなけりゃあ、………」
「ああ信じるよ、もうこれからきっと信じるよ」


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