谷崎潤一郎 『痴人の愛』 「僕は熊谷政太郎と云うもんです。―――自己…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 谷崎潤一郎 『痴人の愛』

現代語化

「僕、熊谷政太郎って言うんですけど。…自己紹介させていただきます、どうかよろしくお願いします…」
「本名、熊谷政太郎。通称、まアちゃんでございます…」
「ねえ、まアちゃん、ついでにちょっと自己紹介したらどうなの?」
「いや、やめて。あんまり言うとボロが出るから…。詳しいことはナオミさんから聞いてください」
「あら、いやよ。詳しいことなんて私が何を知ってるのよ」
「あははは」
「さあ、いかがですか。浜田くんも熊谷くんも、こちらにお掛けになりませんか」
「譲治さん、私喉乾いたから、何か飲み物頼んでよ。浜さん、あなたは何にする?レモン・スカッシュ?」
「え、僕は何でも構わないですけど…」
「まアちゃん、あなたは?」
「せっかくご馳走になるなら、ウィスキー・ソーダがいいですね」
「まあ、あきれた。私は酒飲みが大嫌いよ。口が臭くて!」
「臭くてもいいよ。臭いところがたまんないんだって」
「あの猿が?」
「あ、やばい、それ言われると謝るよ」
「あははは」
「じゃ、譲治さん、ボーイ呼んでください。…ウィスキー・ソーダを1つ、それからレモン・スカッシュを3つ。…あ、待って、待って!レモン・スカッシュはなしにして、フルーツ・カクテルにして」
「フルーツ・カクテル?」
「カクテルならお酒じゃないの?」
「嘘よ、譲治さんは知らないのよ。…まあ、浜ちゃんもまアちゃんも聞いて。この人って、こんなに野暮なの」
「この人」
「だからほんとに、ダンスに来たってこの人と2人じゃつまんないわ。ぼーっとしてるから、さっきも滑って転びそうになったのよ」
「床がツルツルしてますからね」
「最初は誰でもぎこちないですよ。慣れてくると徐々に上手くなりますけど…」
「じゃ、私はどう?私もやっぱりぎこちない?」
「いや、あなたは別よ。ナオミちゃんは度胸があるから…。社交術の天才ね」
「浜さんも天才じゃない方じゃないわ」
「へえ、俺?」
「そうよ。春野綺羅子といつの間にかお友達になったりして!ねえ、まアちゃん、そう思わない?」
「うん、うん」
「浜田、お前綺羅子に言い寄ったのかい?」
「冗談じゃないよ。そんなことするわけないじゃん」
「でも浜さん、真っ赤になって言い訳するだけかわいいわ。どこか正直なところがあるわ。…ねえ、浜さん、綺羅子さんをここに呼んでこない?ねえ!呼んでらっしゃいよ!私にも紹介して」
「なんて、またからかうんだろう?君の毒舌にかかったらかなわないよ」
「大丈夫よ。からかわないから呼んでらっしゃいよ。賑やかな方がいいじゃない」
「じゃあ、俺もあの猿を呼んでくるかな」
「あ、それいいね、それいいね」
「まアちゃんも猿呼んでよ。みんなで集まろうよ」
「うん、いいよ。でももうダンス始まったよ。1回お前と踊ってからにしようよ」
「私はまアちゃんとなんて嫌だけど、しょうがない、踊ってやるよ」
「言うな言うな。習いたての癖に」
「じゃ譲治さん、私1回踊ってくるから見てて。後であなたと踊るから」

原文 (会話文抽出)

「僕は熊谷政太郎と云うもんです。―――自己紹介をして置きます、どうか何分―――」
「本名を熊谷政太郎、一名をまアちゃんと申します。―――」
「ねえ、まアちゃん、ついでにも少し自己紹介をしたらどうなの?」
「いいや、いけねえ、あんまり云うとボロが出るから。―――委しいことはナオミさんから御聞きを願います」
「アラ、いやだ、委しい事なんかあたしが何を知っているのよ」
「あははは」
「さ、いかがです。浜田君も熊谷君も、これへお掛けになりませんか」
「譲治さん、あたし喉が渇いたから、何か飲む物を云って頂戴。浜さん、あんた何がいい? レモン・スクォッシュ?」
「え、僕は何でも結構だけれど、………」
「まアちゃん、あんたは?」
「どうせ御馳走になるのなら、ウイスキー・タンサンに願いたいね」
「まあ、呆れた、あたし酒飲みは大嫌いさ、口が臭くって!」
「臭くってもいいよ、臭い所が捨てられないッて云うんだから」
「あの猿がかい?」
「あ、いけねえ、そいつを云われると詫まるよ」
「あははは」
「じゃ、譲治さん、ボーイを呼んで頂戴、―――ウイスキー・タンサンが一つ、それからレモン・スクォッシュが三つ。………あ、待って、待って! レモン・スクォッシュは止めにするわ、フルーツ・カクテルの方がいいわ」
「フルーツ・カクテル?」
「カクテルならばお酒じゃないか」
「うそよ、譲治さんは知らないのよ、―――まあ、浜ちゃんもまアちゃんも聞いて頂戴、この人はこの通り野暮なんだから」
「この人」
「だからほんとに、ダンスに来たってこの人と二人じゃ間が抜けていて仕様がないわ。ぼんやりしているもんだから、さっきも滑って転びそうになったのよ」
「床がつるつるしてますからね」
「初めのうちは誰でも間が抜けるもんですよ、馴れると追い追い板につくようになりますけれど、………」
「じゃ、あたしはどう? あたしもやっぱり板につかない?」
「いや、君は別さ、ナオミ君は度胸がいいから、………まあ社交術の天才だね」
「浜さんだって天才でない方でもないわ」
「へえ、僕が?」
「そうさ、春野綺羅子といつの間にかお友達になったりして! ねえ、まアちゃん、そう思わない?」
「うん、うん」
「浜田、お前綺羅子にモーションをかけたのかい?」
「ふざけちゃいかんよ、僕あそんなことをするもんかよ」
「でも浜さんは真っ赤になって云い訳するだけ可愛いわ。何処か正直な所があるわ。―――ねえ、浜さん、綺羅子さんを此処へ呼んで来ない? よう! 呼んでらッしゃいよ! あたしに紹介して頂戴」
「なんかんて、又冷やかそうッて云うんだろう? 君の毒舌に懸った日にゃ敵わんからなア」
「大丈夫よ、冷やかさないから呼んでらッしゃいよ、賑やかな方がいいじゃないの」
「じゃあ、己もあの猿を呼んで来るかな」
「あ、それがいい、それがいい」
「まアちゃんも猿を呼んどいでよ、みんな一緒になろうじゃないの」
「うん、よかろう、だがもうダンスが始まったぜ、一つお前と踊ってからにしようじゃないか」
「あたしまアちゃんじゃ厭だけれど、仕方がない、踊ってやろうか」
「云うな云うな、習いたての癖にしやがって」
「じゃ譲治さん、あたし一遍踊って来るから見てらッしゃい。後であなたと踊って上げるから」


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