谷崎潤一郎 『痴人の愛』 「約束がなけりゃあ、この次に己と踊ろうか?…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 谷崎潤一郎 『痴人の愛』

現代語化

「他に約束なければ、次に私と踊りませんか?」
「嫌よ、お母さんは下手くそだもん!」
「バカなこと言わないでよ。月謝は払わないけど、ちゃんと踊れるって不思議だよ」
「へえ」
「根が器用だからね」
「ふん、偉そうに言うんじゃないよ!あのピンクの服着て踊ってたの、全然似合ってないよ」
「や、こいつはひどい」
「私も厚かましい方だけど、あの人には負けるよ。あんな服着てここに出没しようなんて」
「何だよあれ、まるで猿だよ」
「あははは、猿か。猿ってうまいこと言うな。ほんと猿みたい」
「上手いこと言うな。自分の連れじゃないか。…お母さん、ほんとに見っともないから注意してあげてよ。西洋人っぽく見せようとしても、あの顔じゃ無理よ。そもそも顔の作りが、和風そのものだし」
「つまり悲しい努力だね」
「あははは、そうよほんと。猿の悲しい努力よ。和服着たって、西洋人っぽく見える人は見えるんだから」
「つまり君みたいにね」
「ふん」
「そうだよ。まだ私の方がハーフっぽく見えるわよ」
「熊谷くん」
「そういえば、あなたは河合さんとは初めてなんじゃなかったかしら?」
「ああ、お顔は何度か拝見していますがね…」
「熊谷」

原文 (会話文抽出)

「約束がなけりゃあ、この次に己と踊ろうか?」
「いやだよ、まアちゃんは、下手くそだもの!」
「馬鹿云いねえ、月謝は出さねえが、これでもちゃんと踊れるから不思議だ」
「へ」
「根が御器用でいらっしゃるからね」
「ふん、威張るなよ! あのピンク色の洋服と踊ってる恰好なんざあ、あんまりいい図じゃなかったよ」
「や、此奴アいけねえ」
「己もずうずうしい方じゃ退けを取らねえ積りだけれど、あの女には敵わねえや、あの洋服で此処へ押し出して来ようてんだから」
「何だいありゃあ、まるで猿だよ」
「あははは、猿か、猿たあうめえことを云ったな、全く猿にちげえねえや」
「巧く云ってらあ、自分が連れて来たんじゃないか。―――ほんとうにまアちゃん、見っともないから注意しておやりよ。西洋人臭く見せようとしたって、あの御面相じゃ無理だわよ。どだい顔の造作が、ニッポンもニッポンも、純ニッポンと来てるんだから」
「要するに悲しき努力だね」
「あははは、そうよほんとに、要するに猿の悲しき努力よ。和服を着たって、西洋人臭く見える人は見えるんだからね」
「つまりお前のようにかね」
「ふん」
「そうさ、まだあたしの方が混血児のように見えるわよ」
「熊谷君」
「そう云えば君は、河合さんとは始めてなんじゃなかったかしら?」
「ああ、お顔はたびたび見たことがあるがね、―――」
「熊谷」


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