GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『右門捕物帖』
現代語化
「わかったからこそ、こうして帰り支度をしているんだろ。猫炬燵でも入って、金の勘定でもしていなよ」
「思うに、あのオヤジ、少しケチくさいな」
「どういうことですか、旦那は、あのオヤジのケチくさいところから、この事件の糸口があるとおっしゃるんですか」
「当然だろう。一言で言えば、小欲が深すぎるんだ。だから、あの軸物をもらったからには、もらうものは何でもアリとばかり、有頂天になっている隙に、さっと雪舟に逃げられてしまったんだ」
「じゃ、やっぱり、あの鳶頭の金助というヤツが怪しいとおっしゃるんですね」
「決まってるよ。あの時、他に誰もあの座敷に入ってきた者がいないとすれば、雪舟の絵に足が生えてでも逃げ出さない限り、金助以外に盗んだ奴はいないだろ」
「でも、先代からのお付き合いで、評判の正直者だと言っていませんでしたか」
「だから、なおさら、あのオヤジ小欲が深すぎるんだろ。相手が正直者だから安心しきって、もらいものにはしゃいでいる隙に、さっと盗みを働かれたんだ。それに、鳶頭のほうは、日ごろ正直者として信用されているのを幸い、そこをつけ込んで裏をかいたんだ」
「なるほどね。そうすると、やっぱり、箱書きをすると言って、あの箱を持ち帰ったことが何か細工のタネですかね」
「ほう。じゃ、お前もやっぱり箱書きが怪しいと思ったんだね」
「だって、考えてみればおかしいじゃないですか。お祝いの贈り物を持ってくるぐらいなら、箱書きなんか最初からちゃんと用意してくるのが普通ですからね。しかも、聞いてみれば、盗まれた雪舟がやはり尺二で、さっきあそこに掛けていた新画のほうも同じ尺二じゃないですか。だから、思うに、あれと雪舟とを入れ替える時、うまく目をくらませて、持ってきた箱の中に雪舟を盗み入れたうえで、箱書きを口実に、まんまと持ち帰ったんじゃないですかね」
「すごい! その通りだよ。その通りだよ。お前もだいぶこの頃修行が積んだな」
「チッ、つまらないことを、めったに褒めてもらえませんよ。アタシだって、3年たちゃ3つになりますからね。それに、何より、盗まれた品物が品物ですからね。あんなかさばるものを、オヤジの見ている前でどうして持ち出しただろうと不審に思っていた時、ふと思い出して旦那が箱のことをお尋ねになったものだから、さてはそこが急所だなと思って、一生懸命聞いていたりちゅうへ、箱書きうんぬんのことをおっしゃったので、こいつ鳶頭が細工したなと気がついたまでのことです」
「いや、すごいよ。どっちにしても、それを気がつくようじゃ、お前もずいぶん腕を上げたよ。――だが、こいつ、象さんがなさそうに見えて、意外に根が深いかもしれないぜ」
「どうしてですか。盗み手の見当はついたけど、肝心の雪舟は簡単に見つからないとおっしゃるんですか」
「いや、そんなものの行方やありかは、俺が出馬するとなればまたたくまに分かるがね。どうもこういうふうに象さんがなさそうに見える事件ってヤツが、思いのほか根が深いものなんだよ。ついこの間の達磨さんの捕り物でもそうなんだが、表面に出ている種が小さいものほど、底が深いんだ」
「だって、雪舟が人の見ている前で、さっと消えてなくなるなんて、ちっとも小さくないじゃないですか」
「それは、お前が雪舟という絵の値打ちに目がくらんでいるからだよ。それを取り除いてみれば、ただの盗難さ。けれども、その盗んだヤツが70近い老人の義理堅い者だっていうんだからな。根が深いかもしれないって言うのは、その義理堅い者がやったってことそのことさ」
「なるほどね。旦那の目のつけどころは、いつも人と違いますからね」
「それに、あの生島屋のおやじが、2度も3度もおれに『右門だかどうだか』と念を押したのが、ちょっと気に入らねえな」
「なるほどそうですよ。アタシもあの一条がいまだに気持ち悪くて。右門の旦那ならお頼みするが、他の八丁堀衆なら頼むまいっていわんばかりのことを、妙に意味を持たせて言ったからね」
「だから、こいつちょっと大物かと思ってるんだ。それに、時が時だからな……おっと、いけない、いけない。話に夢中になっているうちに、とんでもない方へ来てしまったぜ。ここをいっちゃ深川に出てしまうじゃないか。二組ってのは、たしか神田だろ」
「はい、そうですよ。連雀町あたりに火の見があったはずです」
「じゃ、面倒くさいや。一っ飛びにまた例の駕籠にしようよ」
「あら、お出でになりました。もう出るのか、もう出るのかと待っていましたっけ。が、旦那の口から駕籠っていうお声がかかりゃ、槍が降ろうと、火の玉が舞おうと、もう俺が天下だ。――おいそこのボウズ! 大急ぎで2丁ご用だぜ」
原文 (会話文抽出)
「では、あの、雪舟の行くえはもうおわかりになったのでござりまするか」
「わかったからこそ、こうして帰りじたくをしているんじゃねえか。ねこごたつにでもはいって、金の勘定でもしていなよ」
「思うに、あのおやじ、少し握り屋らしいな」
「とおっしゃると、だんなは、あのおやじの握り屋らしいところに、なんかこの事件の糸口があるっておっしゃるんですかい」
「あたりめえよ。ひと口にいや、小欲が深すぎるんだよ。だから、あの軸物をもらったんで、もらうものならなんでもござれとばかり、ほくほくもので有頂天になっているすきを、ちょろりと雪舟に逃げられてしまったんだ」
「じゃ、やっぱり、あの鳶頭の金助とやらが怪しいとおっしゃるんですね」
「決まってらあ。あのおり、ほかにだれもあの座敷へ来たものがねえとすりゃ、雪舟の絵に足がはえてでも逃げ出さねえかぎり、金助よりほかに盗んだやつあねえじゃねえか」
「でも、先代からのお出入りで、評判の正直者だといったじゃござんせんか」
「だから、なおのこと、あのおやじ小欲が深すぎるにちげえねえっていうんだよ。相手が正直者だから安心しきって、もらいものに有頂天となっているすきを、ちょろりと細工されちまったんだ。また、鳶頭のほうからいや、日ごろ正直者として信用されているのをさいわい、そこをつけ込んで裏かいたのさ」
「いかにもね。そうすると、やっぱり、箱書きをするといって、あの箱を持ちけえったことがなんか細工の種ですかね」
「ほほう。じゃ、おまえもやっぱり箱書きが怪しいとにらんだかい」
「だって、考えてみりゃおかしいじゃござんせんか。お祝儀の進物に持ってくるくれえなら、箱書きなんぞまえからちゃんと用意してくるのがあたりめえなんだからね。しかも、きいてみりゃ、盗まれた雪舟がやっぱり尺二で、さっきあそこに掛かっていた新画のほうも同じ尺二じゃござんせんか。だから、思うに、あれと雪舟とを掛け替えるとき、うまいこと目をちょろまかして、持ってきた箱の中へ雪舟を盗み入れたうえで、箱書きを口実に、まんまと持ち帰ったんじゃござんせんかね」
「偉い! そのとおりだよ。そのとおりだよ。きさまもだいぶこのごろ修業が積んだな」
「ちぇッ、つまらないことを、めったにほめてもらいますまいよ。あっしだって、三年たちゃ三つになりますからね。それに、でえいち、盗まれた品物が品物ですからね。あんなかさばるものを、おやじの見ている前でどうして持ち出したろうと不審をうっているとき、ひょっくりとだんなが箱のことを尋ねなすったものだから、さてはそいつが急所だなと思って、いっしょうけんめい聞いていたところへ、箱書きうんぬんのことを申し立てたので、こいつ鳶頭が細工したなと気がついたまでのことでさ」
「いや、偉いよ。どっちにしても、それを気がつくようじゃ、きさまもめっきり腕をあげたよ。――だが、こいつ、ぞうさなさそうに見えて、存外根が深いかもしれねえぜ」
「とおっしゃいますと、なんですかい。盗み手のめぼしはついたが、肝心の雪舟はちょっくらちょいとめっからないとでもおっしゃるんですかい」
「いいや、そんなものの行くえやありかは、このおれが出馬するとなりゃまたたくまだがね。とかくこういうふうにぞうさがなさそうに見える事件ってものが、思いのほかに根の深いもんだよ。ついこないだの達磨さんの捕物でもそうなんだが、うわべに現われているたねの小さいものほど、底が深いものさ」
「だって、雪舟が人の見ている前で、ひゅうどろどろと消えてなくなるなんて、ちっとも小さかねえじゃござんせんか」
「そりゃ、きさまが雪舟という絵の値うちに目がくらんでいるからだよ。そいつをとりのけてみりゃ、ただの盗難さ。けれども、その盗んだやつが七十近い老人のりちぎ者だっていうんだからな。根が深いかもしれねえっていうなあ、そのりちぎ者のとったってことそのことさ」
「大きにね。だんなの目のつけどころは、いつも人と違うからね」
「それに、あの生島屋のおやじが、二度も三度もおれに右門だかどうだか念を押したのが、ちっと気に入らねえじゃねえか」
「いかにもさよう。あっしもあの一条がいまだに気持ちがわるいんですがね。右門のだんなならお頼みするが、ほかの八丁堀衆なら頼むまいっていわんばかりのことを、変に気を持たせてぬかしゃがったからね」
「だから、こいつちっと大物かと思っているのさ。それに、時が時だからな……おっと、いけねえ、いけねえ。話に夢中になっているうちに、とんでもねえほうへ来ていらあ。ここをいっちゃ深川へ出てしまうじゃねえか。に組っていや、たしか神田だったろ」
「へえい、さようでござんす。連雀町あたりに火の見があったはずでござんすよ」
「じゃ、めんどうくせえや。ひと飛びにまた例の駕籠にしようよ」
「そらッ、おいでなすった。もう出るか、もう出るかと待っていましたっけが、だんなの口から駕籠っていうお声がかかりゃ、槍が降ろうと、火の玉が舞おうと、もうおれが天下だ。――おいそこの裸虫! 大急ぎ二丁ご用だぜ」