佐々木味津三 『右門捕物帖』 「何ぞ出来いたしたそうじゃが、どんなことで…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『右門捕物帖』

現代語化

「何があったんですか」
「ああ、ご苦労様です。あの、妙なことをしつこく繰り返すようですが、本当に右門様でいらっしゃいますか」
「さっき、店の者も念を押していたようだが、もしも私が右門じゃなかったら、どうする気だ?」
「お2人を前に、変なことを言うようですが、もし右門様でいらっしゃらなかったとしたら、無理に騒ぎ立ててもどうかと思いますので、控えておこうかと思っているのです」
「すると、要するに、右門なら安心して任せておけるというわけか」
「はい、まあ、そういうことです」
「いや、なかなか興味深い話だな。実は私も右門だ」
「ああ、そうでしたか。では、ちょっと内聞でお話したいことがありますので、そちらの方をお引き取り願いたいのですが、いかがでしょう」
「大丈夫、心配無用だ。これは私の付き人みたいなヤツなので、何でも話してくれ」
「そうでしたか。では申しますが、実は今この座敷で、突然軸が紛失してしまったのです」
「軸というのは、書画のあれか」
「はい」
「作品は何か」
「雪舟の絹本でした」
「雪舟となればかなりの逸品だな。家宝か何かだったのか」
「はい。代々家に伝わった、2つとない逸品なので、こうして慌てているのです」
「いつ頃なくなった」
「さっきすぐ、しかもまだ旦那様方がお買い物をしている時でした」
「聞き捨てならない話だな。場所はどこだ」
「あの床の間に掛けてあったのです」
「だが、この床には今、何やらめでたい新画が掛かっているではないか」
「それが不思議なんです。実は、さっき出入りの鳶頭が来て、つい10日前に私の息子が嫁を娶ったので、お祝いにこの新画の幅をくれたもので、早速これと雪舟を入れ替えて鳶頭と2人で眺めていたら、床に置いておいた雪舟がいつの間にか消えてしまっていたんです」
「ほう。じゃあ、その間この部屋には誰も入ってこなかったというのか」
「ええ、入るどころではありません。私と鳶頭がずっとここに居たのに、後で気付いたら、雪舟だけがなくなっていたんです」
「何、後……? 後というのは、鳶頭が帰ってからということか」
「はい。いつもせかせかした男で、すぐ帰ってしまったので、うちの者に玄関まで送らせて、ふと気付くと、もう雪舟が消えてなくなっていたのです」
「すると、もし疑うなら、その鳶頭というヤツが怪しいということか」
「ところが、それが大間違いなんです。に組の金助という古顔の鳶頭で、旦那様方もご存知だと思いますが、うちの家はもう先代からの付き合いで、今年70になるまで一度も人から後ろ指をさされたことがないという生粋の江戸っ子なので、疑うどころか、怪しい点など1つもありません。それに、私がその間席を外したとか、お便所に行ったとか言うなら、鳶頭にも疑いがかかりますが、何しろ来る時から帰る時まで、ずっとこの2つの目で見ていたのに、雪舟だけが消えてなくなってしまったんですから、どうにも解せないんです」

原文 (会話文抽出)

「何ぞ出来いたしたそうじゃが、どんなことでござる」
「あっ、ご苦労さまに存じます。あの、妙なことをしちくどく念押しするようでござりまするが、ほんとうに右門のだんなさまでござんしょうか」
「先ほど、お店のかたも念を押されたようじゃが、もしてまえが右門でなかったならば、なんと召さる?」
「おふたりさまを前にして、変なことを申すようでござりまするが、もし右門のだんなさまでござりませなんだら、なまじ事を荒だててもどうかと存じますので、差し控えようかと思うているのでござります」
「すると、なんじゃな、右門なら事をまかしても安心じゃというのじゃな」
「へえい、ま、いってみればさようでござります」
「いや、なかなか味のありそうな話じゃ。いかにも拙者が右門でござるよ」
「あっ、さようでござりまするか。では、ちとご内聞に申し上げとうござりますので、そちらのかたをお人払いを願いとうござりまするが、いかがなものでござりましょう」
「だいじょうぶ、ご心配無用じゃ。これはてまえの一心同体のごとき配下じゃから、なんでも申されよ」
「さようでござりまするか。では申し上げまするが、実は今これなる座敷で、ふいっと軸が紛失いたしましてな」
「軸と申すと、書画のあの軸でござるか」
「へえい」
「品物は何でござる」
「雪舟の絹本でござりました」
「雪舟と申すとなかなか得がたい品じゃが、家宝ででもござったか」
「へえい。代々家に伝わりました、二幅とない逸品でござりますので、かくうろたえているしだいでござります」
「いつごろでござった」
「ほんのただいま、それもまだだんなさまがたがお買い物中のことでござります」
「聞き捨てならぬことじゃな。場所はどこでござった」
「その床の間に掛けてあったのでござりまする」
「でも、この床には現在なにやらめでたそうな新画が掛かっているではないか」
「いいえ、それが不思議の種なんでござりまするよ。実は、いましがた出入りの鳶頭が参りましてな、つい十日ほどまえにてまえのせがれが嫁をめとりましたので、その祝儀じゃと申しまして、この新画の幅をくれたものでござりますから、さっそくこれと雪舟とを掛け替えて鳶頭とふたりでながめておりましたら、そのまに取りはずしておいた雪舟が、いつか消えてなくなったのでござりまするよ」
「ほほう。では、その間だれもこのへやへははいらなかったというのじゃな」
「ええ、もうはいるどころではござんせぬ。てまえと鳶頭がちゃんとここについていましたのに、あとで気がつきましたら、雪舟だけがなくなっていたのでござります」
「なに、あと……? あとと申すと、鳶頭が帰ってからのことじゃな」
「へえい。いつも気ぜわしげな男で、すぐに帰りましたゆえ、うちのものに玄関まで送らせまして、ふと気がつくと、もう雪舟が消えてなくなったのでござります」
「すると、なんじゃな、もし疑いをかけるなら、その鳶頭とやらが怪しいわけじゃな」
「ところが、それが大違いでござります。に組の金助といや古顔の鳶頭でござんすから、だんながたもご存じだろうと思いまするが、てまえの家はもう先代からの出入りで、今年七十になるまでただの一度も人からうしろ指さされたことのないっていうりちぎ一方の江戸っ子なんでござりますから、疑うどころか、怪しい節一つないんでござりまするよ。それに、てまえがその間座をはずしたとか、ご不浄にでも立ったとか申しますなら、鳶頭にも疑いがかかるんでござりますが、なんしろ来るから帰るまで、ちゃんとてまえがこの二つの目で見張っていましたのに、雪舟だけが消えてなくなったんでござんすから、どうにも解せないのでござります」


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