佐々木味津三 『右門捕物帖』 「いや、お待ちめされ! 拷問ばかりが吟味の…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『右門捕物帖』

現代語化

「いや、待ってください! 拷問ばかりが取り調べの手ではありません。物事には順序と道理があるはずです。理詰めで追求すれば、必ず実を吐くものです。私が代わりに取り調べさせていただきます。――さあ、権右衛門、上には目のある者も、慈悲を持つ者もいます。ありのままに申しなさい。なぜあなたは源内を一昨夜あのようにもろたらしく殺しておきながら、自分の死体のように見せかけて人々を惑わせようとしたのか。これから先も嘘をつこうとしても、八丁堀のムッツリ右門と呼ばれる私の目が光っている限り、偽りは許しませんよ!」
「お言葉、胸に刻みます。それでは正直に申し上げますが、その前に、なぜ主人はあの死体がわたしの身代わりだとお見通しだったんですか」
「言うまでもありません。昨日、あの愚かな手紙を送ってきたことで不審が募ったのです。しかも、日本橋に立てた看板と手紙を別々に、どちらかを妻にでも代筆させたら、まだ不審を抱かなかったかもしれませんが、両方ともそなたが書いたとは、賢そうに見えても愚か者ですね」
「なるほど、とんだしくじりでしたが、でも、わたしが天井裏に隠れていたのは、よくおわかりでしたか」
「あの猫が焼き魚を盗んだことが、そなたの運の尽きだったのです。人間がいなければ、天井裏に食べごろの焼き魚などあるはずがありませんから」
「そうでしたか。いや、重ねてお見事でした。では、正直に白状します。実は、私は、あの非業の死を遂げた源内と一緒に、長崎表に根城を構え、遠くはルソン、天竺あたりまで出かけて密貿易をしていた卍組の一味だったのです。そのうち、この妻と親しくなり、最初は船の帰るたびに会っていただけで、私も妻も満足していましたが、やがてあのかわいい息子が生まれてから、妻にも息子にも愛着が湧き、いろいろ考えた末、上のお目を忍んでいつまでも密貿易を続けていたら、いずれ遠からず捕まって打ち首になり、妻子どころかせっかくもうけた息子とも死別しなければならないだろうと思い、恥ずかしながら、妻子への愛しさに負けて、死んでも仲間を売らないと神に誓ったものの、仲間の者に背いて長崎奉行に密告してしまったのです。それも、密告すればお奉行様が私の罪をお許しくださるとの内達があったので、息子のために自分の命を長らえさせようと、なんと血を吸い合った兄弟を裏切ってしまったのですが、いや、悪いことはできません。兄弟たちは私を極度に恨み、どうにかして裏切り者の私に天誅を加えようと、一度長崎表で捕らえられたものの、仲間のうち4人が決死隊となって脱獄を企て、どこでどう嗅ぎつけたものか、私が江戸に潜んでいることを聞きつけて討ち手として向かったと知りました。そこで私も十分に気をつけ、つい1か月ほど前にわざわざこんな辺鄙な土地に逃げ隠れ、うまく身を隠すことができたつもりでしたが、それが一昨夜でした。その4人のうちの1人であるあいつが、長崎表からのお達しでこちらで主人の命を狙っているところを、運良くというか、入牢していたときに仲間から偶然にも私の居場所を聞きつけ、脱獄して辻占売りとなり、私を討ち取ろうとやって来たのですが、昔取った杵柄で、私の方が少しだけ腕が上回っていたために、かえってあいつを殺してしまったのです。その時、ふとこの妻が知恵を働かせてくれたので、私も急に替え玉のことを思い付き、幸いにも右乳の下には源内にも私にも同じ卍の入れ墨があったので、源内の顔をあのようにもろに切り刻んで、その卍の入れ墨を何よりも確かな証拠のように見せかけようと、思い切り叩いてみました。そして、お上の目をくらまして、あの日本橋に立てた看板によって、まだ江戸のどこかで私を狙って潜んでいるはずの残る3人の卍組の刺客たちにも、私がすでに死んだように装って、彼らの凶刃から一生安楽に逃れるつもりだったのですが、右門殿の慧眼によって、とうとうこのように正体を見破られてしまいました。このように、何もかも隠さずにお話ししましたので、もしも、この私の息子のために特別なお慈悲をいただければ幸いです……」

原文 (会話文抽出)

「いや、お待ちめされ! 拷問ばかりが吟味の手ではござらぬ。物には順序と道理があるはずじゃから、理詰めに調べたてれば、実を吐かぬというはずはござらぬ。てまえが代わって吟味つかまつろう。――さ、権右衛門、上には目のある者も、慈悲を持つ者もあるゆえ、ありていに申すがよいぞ。何がゆえに、なんじは源内を一昨夜かようにむごたらしき死に落とし、おのれの死骸のごとくによそおって、人目をたぶらかそうといたしおった。このうえ白を黒と申しても、八丁堀にむっつり右門といわるる拙者の目が光っているかぎり、偽りは申させぬぞ!」
「おことば身にしみてござります。いかにも白状いたしましょうが、それより、どうしてだんなは、あの死体がてまえの替え玉であるとおにらみでござりましたか」
「いうまでもないことじゃ。きのうあのような愚かしき手紙を持たしてよこしたによって、不審がわいたのじゃ。それも、日本橋にさらした立て札と手紙とは別々に、どちらか妻女にでも代筆させたら、まだ不審はわかなかったかもしれぬが、両方ともにそのほうが書くとは、りこうそうにみえても愚かなやつじゃ」
「なるほど、とんだしくじりでござりましたが、でも、てまえが天井裏に潜みおること、よくおにらみでござりましたな」
「あれなるねこに焼きざかなを取られたことが、そちの運のつきじゃったわい。人間がいなくば、天井裏に食べごろの焼きざかななぞあるはずはないからな」
「さようでござりましたか。いや、かさねがさね慧眼恐れ入りました。では、いかにも、神妙に白状いたしましょうが、何をかくそう、てまえは、もと、あれなる非業の死をとげしめた破牢罪人の源内などとともに、長崎表に根城を構えて、遠くは呂宋、天竺あたりまでへもご法度の密貿易におもむく卍組の一味にござりました。しかるうちに、これなる妻女となじみましてな、はじめのうちは船の帰るたびに相会うだけで、てまえも妻女も満足してござりましたが、いつかあれなるかわいいせがれができまして、それからというもの、急に妻女にもせがれにもいとしさがつのり、いろいろと考えましたところ、上の目をおかすめたてまつって、いつまでもご法度の密貿易なぞに従っていましたのでは、いずれ遠からずご用弁になって打ち首にでもなり、家内はおろか、せっかく設けたかわいいせがれとも、死に別れいたさねばなるまいと存じましたによって、お恥ずかしいことながら、妻子たちのかわいさゆえに、死すとも友は売るまじと神に誓って、あのようにめいめい右乳下へ卍のいれずみすらしておいた身にかかわらず、つい仲間の者にそむいて、長崎奉行に密告したのでござります。それも、密告すればお奉行さまがてまえの罪をお許しくださるというご内達でござりましたから、せがれのために行く末長いてまえの命ほしさで、ついつい、血をすすり合った兄弟を裏切ったのでござりまするが、いや、わるいことはできないものでござる。兄弟たちが極度にてまえを恨み、いかにしても裏切り者のてまえに天誅を加えねばと、一度長崎表でご用弁となったにかかわらず、仲間のうちの四人が決死隊となって破牢を企て、どこでどうかぎつけたものか、てまえが江戸に潜んでいることを聞きつけまして討っ手に向かったと知りましたので、じゅうぶんてまえも気をつけまして、ついひと月ほどまえに、わざわざこんなへんぴな土地へ逃げかくれ、首尾よく身を隠しおおせていたつもりでござりましたが、それが一昨夜でござりました。その四人のうちのひとりのあれなる源内が、長崎表からのお達しでこちらのだんなにご用弁となり、運よくというか、入牢していたうちにだれからか、はからずもてまえがここにいるということをかぎつけ、あのように破牢いたしましてつじうら売りとなり、てまえを討ち取りに参りましてござるが、昔とったきねづかに、てまえのほうが少しばかり力があまっているため、かえってきゃつめを討ち取ってしまったのでござります。そのとき、ふとこれなる妻女が知恵をつけてくれましたので、てまえも急に替え玉のことを思いつき、さいわい右乳下には源内にもてまえにも同じ卍のいれずみがござりましたから、源内の面をあのようにめった切りといたしまして、その卍のいれずみをなによりの証拠のようにみせかけるつもりで、ひとしばい打ってみたのでござります。そうして、上のお目をかすめ、あの日本橋へかかげた立て札によって、いずこにいるか、たしかにまだこの江戸の中にてまえをねらって潜んでいるはずの、残る三人の卍組刺客たちにも、てまえがもう死んだごとくに装って、その凶刃から一生安楽にのがれるつもりでござりましたが、右門のだんなの慧眼に、とうとうこのように正体を見現わされたのでござります。かくのとおり、なにもかも包まずに申し上げましたによって、さいわいに、あれなるてまえのせがれのために、特別のお慈悲あるおさばきをいただければしあわせにござります……」


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