GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。
青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『右門捕物帖』
現代語化
「気味悪い。急にヘンなこと言って、坊さんにでもなる気ですか?」
「いや、俺自身はちっとも焦った気はねえんだが、どうもあばたの野郎が向こうに回るたびに、こういう失敗があるんだから、いつのまにか俺も焦ってるらしいよ」
「じゃ、何か見落としでもあったんですか?」
「それが大ありだから、俺にも似合わねえって話さ。まあ、お前もよく考えてみなよ。まず、おかしいのはこの看板なんだが、中仙道に逃げた奴が、いつの間にこいつを日本橋に持ってくるんだ」
「なるほどね。考えてみりゃ、足の20本くらいある奴じゃなきゃできねえや」
「だから、それが最初の不審。2つめの不審は、この看板の文句だよ。念のため、もう一度お前も読み直してみりゃいいが、『諸君よ、恒藤権右衛門はみごとわれら天誅を加えたれば、意を安んじて可なり』となってるぜ」
「ちげえねえ。いくら無学でも、俺だって天誅って文句くらいは知ってるよ。天に代わって討ったって意味じゃござんせんか」
「しかるにだ、権右衛門の奥さんは、理不尽に切りつけたって言ったぞ」
「なるほど、ちょっとくせえね」
「まだまだあるよ。3つめの不審は、今使いが持ってきた手紙の筆跡と、こっちの看板の筆跡だが、実に妙なこともあるじゃねえか。線の引き方、点の打ち方、まるで2つが同じ人間が書いたみたいに似てるぜ」
「なるほどね、墨色までがそっくりでござんすね」
「しかも、『恒藤権右衛門家内』って、女じゃなきゃならねえはずなのに、誰が書いたものか、この手紙はそっちの看板の筆跡と同じく、れっきとした男文字だよ」
「ちげえねえ。じゃ、また駕籠ですかい」
「いや、まだ早いよ。それから、4つめの不審は、恒藤夫人自身だがな、お前もなにか思い出すことはねえのかい」
「あるんですよ、あるんですよ。俺が行った時から変に思ってるんだがね。あの家の造りは、浪人者親子3人にはちょっと贅沢すぎゃしませんか」
「しかり。まだまだあるはずだが、気づいたことはねえかい」
「あのおかみさんの落ち着き具合じゃござんせんかい」
「そうだよ、そうだよ。俺はさっき、あのおちつき方に感心しちゃったんだがね。普段の行いが良いせいで、あんな非常事態になっても慌てた様子を見せないところは、さすが侍の妻女だなあと思ってな、ついさっきまで感心してたんだが、考えてみりゃ、ちょっとおさまりすぎてるぜ。しかもだ、それほどの肝っ玉母さんの侍の妻が、目の前で夫の殺されるのを指くわえて見てるはずもねえじゃねえか。あまつさえ、路用の金を20両もみすみす強奪されたというにいたっては、ちっとあの恒藤夫人くわせ者だぜ」
「しかり、しかりだ。それに、あの恒藤権右衛門も、殺され方がちょっと変じゃござんせんか。強盗が勢いで人を殺したにしても、あれまで顔をメッタ切りにする必要はねえんだからね」
「だからよ、急に腹が減ってきたから、まず昼飯でも食おうよ」
「気に入りやした。言われて、俺も急にゲッソリしてきましたから、さっそく用意しますけど、何かおかずはござんしたかね」
「くさやの干物があったはずだから、そいつを焼いてくれ。それから、奈良漬のいいところをたっぷり出してくれ。そっちの南部鉄瓶でお湯を沸かして、玉露のとろとろしたやつで奈良漬け茶漬けってのはどんなもんか」
「聞いただけでもうめえや。じゃ、お待ちなせえよ。伝六様の腕のいいところを、ちょちょっとお目にかけますからね」
原文 (会話文抽出)
「なあ、伝六、人間の心持ちってものは、おかしな働きをするもんじゃねえか」
「気味のわるい。突然変なことおっしゃって、坊主にでもなるご了見ですかい」
「いいやね、おれ自身じゃちっともあせったつもりはねえんだが、どうもあばたの野郎が向こうに回るたびに、こういうしくじりがあるんだから、いつのまにかおれもあせるらしいよ」
「じゃ、何かお見おとしでもあったんですかい」
「それが大ありだから、おれにも似合わねえって話さ。まあ、おめえもよく考えてみなよ。だいいち、おかしいのはこの立て札なんだが、中仙道へ突っ走ったやつが、いつのまにこいつを日本橋へもってこられるんだい」
「なるほどね。考えてみりゃ、足の二十本ぐれえもあるやつでなきぁできねえや」
「だから、そいつがまず第一の不審さ。第二の不審は、この立て札の文句だよ。念のために、もういっぺんおめえも読み直してみるといいが、諸君よ、恒藤権右衛門はみごとわれら天誅を加えたれば、意を安んじて可なり、としてあるぜ」
「ちげえねえ。いくら無学でも、あっしだって天誅という文句ぐれえは知ってらあ。天に代わって討ったってえ意味じゃござんせんか」
「しかるにだ、権右衛門のおかみは、理不尽に切りつけたといったぞ」
「なるほど、少しくせえね」
「まだあるよ。第三の不審は、いま使いがもってきたこの手紙の筆跡と、こっちの立て札の筆跡だが、実に奇妙なこともあるじゃねえか。棒の引き方、点の打ちぐあい、まるで二つが同じ人間の書いたほどに似ているぜ」
「なるほどね、墨色までがそっくりでござんすね」
「しかも、恒藤権右衛門家内といや、女でなくちゃならねえはずなのに、だれが書いたものか、この手紙はそっちの立て札の筆跡同様、れきぜんと男文字だよ」
「ちげえねえ。じゃ、また駕籠ですかい」
「いや、まだ早いよ。それから、第四の不審は、恒藤夫人自身だがな、おめえもなにか思い出すことはねえのかい」
「あるんですよ、あるんですよ。あっしゃ行ったときから変に思ってるんだがね。あの家の構えは、浪人者親子三人にしちゃ、すこしぜいたくすぎゃしませんか」
「しかり。まだあるはずだが、気のついたことはねえかい」
「あのおかみさんのおちつきぐあいじゃござんせんかい」
「そうだよ、そうだよ。おれゃさっき、あのおちつきかたを実あ感心したんだがね。日ごろの身だしなみがいいために、あんな非常時に出会っても取りみだした様子を見せないところは、さすが侍の妻女だなあと思ってな、つい今まで感服していたんだが、考えてみりゃ、ちっとおさまりすぎているぜ。しかもだ、それほどの巴板額ごときおちつきのある侍の勇夫人が、目の前で夫の殺されるのを指くわえて見ているはずもねえじゃねえか。あまつさえ、路用の金を二十両もみすみす強奪されたというにいたっては、ちっとあの恒藤夫人くわせ者だぜ」
「しかり、しかりだ。それに、あの恒藤権右衛門も、切られ方がちっと不思議じゃござんせんか。物取り強盗が時のはずみで人を殺したにしても、あれまで顔をめった切りにする必要はねえんだからね」
「だからよ、急におら腹がへってきたから、まずお昼でもいただこうよ」
「気に入りやした。いわれて、あっしも急にげっそりとしましたから、さっそく用いましょうが、なんかお菜がござんしたかね」
「くさやの干物があったはずだから、そいつを焼きなよ。それから、奈良づけのいいところをふんだんに出してな。そっちの南部のお鉄でゆっくりお湯を沸かして、玉露のとろりとしたやつで奈良茶づけとはどんなものだい」
「聞いただけでもうめえや。じゃ、お待ちなせいよ。伝六さまの腕のいいところを、ちょっくらお目にかけますからね」