佐々木味津三 『右門捕物帖』 「まさかに、取り逃がしたのではあるまいな」…

GoogleのAI「Gemini」を使用して現代語化しました。


青空文庫図書カード: 佐々木味津三 『右門捕物帖』

現代語化

「まさか、取り逃がしたんじゃあるまいな」
「何も言わずに、私に暇をくださいまし」
「なんだい、不意にまた、お前らしくもないことを言うじゃねえか」
「ちっとも私らしくねえこたあねえんです。さっきから一生懸命考えたんですが、それよりほかにゃ行く道がねえんだから、お願いするんですよ」
「じゃ、お前、今になって俺に愛想が尽きたのか」
「とんでもないことをおっしゃいますな! ここらがご恩返しのしどころと思うからこそ、命も的にしようって覚悟をしたんです」
「ウッフフ、そうか。じゃ、敬四郎の野郎にでも邪魔されたんだな」
「邪魔どころの段じゃねえんです。いかに上役だからって、あんまりあばたの旦那もいじわるなことをするじゃござんせんか」
「どんな真似やりやがった」
「お尋ねの非人はすぐに見つかりましたからね、出すぎたこととも思いましたが、ちっとばかり私も里心を出して、野郎どもにかまをかけてみたんですよ。するてえと――」
「破牢罪人から酒手をもらって、2人分入る寝棺を、昨日あそこへかつぎ込んだといったろ」
「ええ、そう、そうなんですが、旦那はどこでお調べなさったんですか?」
「御官医の玄庵先生だよ。菰で運び出すのが定なのに、ぜいたくな棺で運搬したといったのでな、おおかた破牢罪人の野郎が非人どもに金をばらまいて、そんな細工をやりやがったんだろうと、たった今しがた、見当がついたところさ」
「そんなら詳しいことは申しますまいが、死人が出たから取りに来いというお達しがあったんで、野郎2人で始末に出かけていったら、破牢罪人の若造が酒手を一両ずんで、寝棺を買ってこいといったんで、すっかりそいつに目がくらんじまって、おおかた破牢だろうと特別でかいやつをかつぎ込んだというんですがね。それをまた牢番たちも間抜けなやつらだが、そばについてでもいりゃいいのに、ぼんやり格子口に立っていたもんだから、すばやくこの死人といっしょに寝棺の中へ入ってしまって、まんまと破獄させてやったというんですよ」
「じゃ、どこへ飛んだか、行き先もだいたい見当がついたんだろ」
「だから、私が、くやしいっていうんですよ。こいつ、いいネタ上げたと思ったからね、まず旦那のところへ連れてこなくちゃと、大急ぎで非人どもをしょっぴいて帰ってきたら、あばたの旦那が息を切らせながら駆けつけてきて、いきなりどかりと一発くらわしたんですよ」
「お前をどかりとやったのか」
「そ、そうなんです。だから、私も食ってかかったらね、下人が何を生意気なことをぬかすんだとおっしゃって、せっかく私がつかまえた非人を腕ずくで横取りしたんですよ」
「じゃ、あばたの野郎も、牢番の者から寝棺のことを聞き込んだんだな」
「だろうと思うんですがね。でなくちゃ、いくらあばたの旦那が上役だからって、私の眉間にこんなこぶをこしらえるはずあござんせんからね。いいえ、そいつもときによっちゃいいんですよ。どうせ、私はまともにも合わねえ下人だからね、なぐろうと、けろうと、それがあしたち下人どもの模範ともなるべき上役のかたのおやりなさることでございましたら、いっさい私も未練たらしい愚痴はこぼしませんがね。でも、それじゃ、せっかく今までご恩を受けた旦那に合わせる顔がねえんじゃござんせんか。あばたの野郎になぐられました、非人も途中で横取りされました、といってすごすご帰ってきたんじゃ、私が旦那に二度と合わせる顔がねえんじゃござんせんか……だから、私だから私……」
「よし、わかった、わかった。情けない、大の男がおいおいと手放しでなんでえ! 泣くな! 泣くな! 泣くなったら泣くなよ!」
「だって、私は、こんなくやしいこたあねえんです。普段は旦那をずいぶんとぞんざいにも口をきかせておりますが、私が旦那を思っている気持ちは、どこのどいつが来たって負けやしません。だから、だから、命を的にしても、私は、あばたの野郎と刺し違えます! 刺し違えて死んでやります! ええ! やりますとも! やらないでいられますか! それも、よその国の者でしたら、ときによっては手柄の横取りもいいんですが、同じおひざもとで、同じお番所のおめしをいただいている仲間うちじゃござんせんか! それになんぞや、肝の小さい小せえ真似しやがって、このうえそんな野郎を生かしておかれますか! ええ! やりますよ 殺してみせますよ! きっと刺し違えてみせますよ! だから……だから……今日限り私に暇をくださいまし……そして、そして、早く旦那も美しい奥様をお迎えなさいましよ。なにより、それがあっしの気がかりでござんすからね。草葉の蔭でお待ちしましょうよ……」

原文 (会話文抽出)

「まさかに、取り逃がしたのではあるまいな」
「なんにもいわずに、あっしへお暇をくだせえましよ」
「なんじゃい、不意にまた、おめえらしくもねえこというじゃねえか」
「ちっともあっしらしくねえこたあねえんです。さっきからいっしょうけんめい考えたんでがすが、それよりほかにゃ行く道がねえんだから、お願いするんですよ」
「じゃ、おめえ、今になっておれにあいそがつきたのか」
「めっそうもねえことおっしゃいますな! ここらがご恩返しのしどころと思うからこそ、命も的にしようって覚悟をしたんです」
「ウッフフ、そうか。じゃ、敬四郎の野郎にでもじゃまされたんだな」
「じゃまどころの段じゃねえんです。いかに上役だからって、あんまりあばたのだんなもくやしいことをするじゃござんせんか」
「どんなまねやりゃがった」
「お尋ねの非人はすぐめっかりましたからね、出すぎたこととも思いましたが、ちっとばかりあっしも里心出して、野郎どもにかまをかけてみたんですよ。するてえと――」
「破牢罪人から酒手をもらって、ふたり分へえれる寝棺を、ゆうべあそこへかつぎ込んだといったろ」
「ええ、そう、そうなんですが、だんなはどこでお調べなすったんですかい」
「ご官医の玄庵先生だよ。こもで運び出すのが定なのに、ぜいたくな棺で運搬したといったのでな、おおかた破牢罪人の野郎が非人どもに金をばらまいて、そんな細工をやりやがったんだろうと、たったいましがた、にらみがついたところさ」
「そんなら詳しいことは申しますまいが、死人が出たから取りに来いというお達しがあったんで、野郎たちふたりで始末に出かけていったら、破牢罪人の若造が酒手を一両はずんで、寝棺を買ってこいといったんで、すっかりそいつに目がくらんじまって、おおかた破牢だろうと特別でけいやつをかつぎ込んだというんですがね。それをまた牢番たちもどじなやつらだが、そばについてでもいりゃいいのに、ぼんやり格子口に立っていたもんだから、すばやくこの死人といっしょに寝棺の中へへえってしまって、まんまと破獄させてやったというんですよ」
「じゃ、どこへ飛んだか、行き先もたいてい見当がついたんだろ」
「だから、あっしゃ、くやしいっていうんですよ。こいつ、いいねたあげたと思ったからね、まずだんなのところへ連れてこなくちゃと、おおいばりで非人どもしょっぴいてけえりかかったら、あばたのだんなが息を切りながら駆けつけてきて、いきなりぽかりとくらわしたんですよ」
「おめえをぽかりとやったのか」
「そ、そうなんです。だから、あっしも食ってかかったらね、下人が何を生意気なことぬかすんだとおっしゃって、せっかくあっしがつかまえた非人を腕ずくで横取りしたんですよ」
「じゃ、あばたの野郎も、牢番の者から寝棺のことを聞き込んだんだな」
「だろうと思うんですがね。でなくちゃ、いくらあばたのだんなが上役だからって、あっしの眉間にこんなこぶをこしらえるはずあござんせんからね。いいえ、そいつもときによっちゃいいんですよ。どうせ、あっしゃましゃくにも合わねえ下人だからね、なぐろうと、けろうと、それがあっしたち下人どもの模範ともなるべき上役のかたのおやりなすってもいいことでしたら、いっせえあっしもみれんたらしい愚痴はこぼしませんがね。でも、それじゃ、せっかく今までご恩をうけただんなに合わす顔がねえんじゃござんせんか。あばたの野郎になぐられました、非人も途中で横取りされました、といってすごすごけえってきたんじゃ、あっしがだんなに二度と合わす顔がねえじゃござんせんか……だから、あっしゃ、だからあっしゃ……」
「よし、わかった、わかった。うすみっともねえ、大の男がおいおいと手放しでなんでえ! 泣くな! 泣くな! 泣くなったら泣くなよ!」
「だって、あっしゃ、こんなくやしいこたあねえんです。平生はだんなをずいぶんとそまつにもした口のきき方をいたしますが、あっしがだんなを思っている心持ちは、どこのどやつが来たって負けやしねえんです。だから、だから、命を的にしても、あっしゃ、あばたの野郎と刺し違えます! 刺し違えて死んでやります! ええ! やりますとも! やらいでいられますか! それも、よその国の者でしたら、ときにとってはてがらの横取りもいいんですが、同じおひざもとで、同じお番所のおまんまいただいている仲間うちじゃござんせんか! それになんぞや、肝ったまの小せえまねしやがって、このうえそんな野郎を生かしておかれますか! ええ! やりますよ 殺してみせますよ! きっと刺し違えてみせますよ! だから……だから……きょうかぎりあっしにおいとまをくだせえまし……そして、そして、早くだんなも美しい奥さまをお迎えなさいましよ。なにより、それがあっしの気がかりでござんすからね。草葉のかげでお待ちしましょうよ……」


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